09ヒバ誕
チッ…チッ…チッ
時計の針の音がいつも以上に気になる。
(3、2、1)
ゴーンと公園の時計が時を告げる。
「…もう10時か…」
約束、の時間だった。
なのに、人の気配すらないということは。
やっぱり来ないよなあ。
沢田は時計を見て、軽くため息をついた。
5年前の約束なんて、忘れてるだろうし、来ないということは、もう……無理ってことなんだよね。
(―…さ…)
ヒバリさん―…

沢田が祝日なのに、人一人いない公園にいる訳は、5年前に遡る。

―5年前

「つーなよし君、早く!」
「うん!ちょっと待ってて!」

俺こと沢田綱吉には幼なじみがいる。
雲雀恭弥と六道骸だ。
この二人は従兄弟だ。
別に二人は俺の家の近くに住んでいる訳ではない。
俺の家の近くに公園があって、そこによく遊びに来ていて知り合ったのだ。
因みに幼なじみと言っても、骸は俺より5つ年上だ。(雲雀さんは俺の一つ上だ)
「お待たせっ。あれ?雲雀さんは?」
「家です。風邪をひいてしまいましてね…」
「えー!!親は?」
骸は少し俯いて静かに言った。
「…来ませんよ。」
「そう…なんだ。」
実は、雲雀さんは家出中なのだ。
理由はよくしらないが、絶縁状態と言っても過言ではないらしい(骸曰く)
ただ、やっと10代になった人間が一人暮らしになるのを、親が許す筈もなく、仕方なく従兄弟である骸が保護者代わりとして、雲雀さんと一緒に住んでいるらしい。
「風邪くらいじゃ来ませんよ…あの親は。」
「…」
何も言えない。学校ではダメツナと皆にバカにされていて、自分より不幸な人間はいないと思っていたけど、最近、自分はまだ幸せなんじゃないかと思い始めた。
「見舞いに行っちゃダメかなあ…?」
骸は驚いて俺を見た。
「ダメなんてことありませんよ!彼も喜びますし。ただ…うつっても知りませんよ?」
「大丈夫!俺馬鹿だから風邪ひかないよ!」
「そう…だといいんですけどね…」
骸は言いにくそうに俺を見た。
「…あの…」
「ん?なに?早く行こうよ!!」
「いえ…早く行きましょうか。」
俺はこのとき、ちゃんと骸の話を聞いていれば良かった。
そうこうしているうちに、雲雀さんの家に着いた。
マンションかなと思っていた俺はかなり吃驚した。
「いっ一軒家あ!?」
「そうですけど。」
骸がさらっと言う。家出中で二人だけで暮らして一軒家って…。
俺ははじめて、雲雀さんの両親に恐怖を覚えた。
本能的に逆らってはいけない気がした。
「失礼しまーす…」
「…誰?」
ドアを開けると、いかにも辛そうな声が聞こえた。
「沢田です…雲雀さん…大丈夫ですか…?」
声がした方の部屋に入ってみると、大人しく布団にくるまっている雲雀さんがいた。
「…大丈夫に見える?」
「いえっ…」
いつもならここで「咬み殺す」とか言われる筈なのに、まともに会話が出来るのは、やはり体調が悪い証拠なのだろう。
「うつるから、来なくていい…」
「大丈夫ですよ!俺馬鹿ですから!!」
俺は何の躊躇もなく雲雀さんに近づいた。
(…ホントに辛そうだなあ)
馬鹿だからなのか、風邪は滅多にひかない俺はこのとき特に何も考えずに爆弾発言をしてしまった。
「雲雀さんの風邪、俺にうつればいいのに…」

今まで眠っていた筈の雲雀さんがいきなり起き出した。
「病人は寝てなきゃダメですよ!!」
「…じゃあお言葉に甘えるとするよ…」
え?と思う間も無く、何かが触れる感じがした。
「…え…え…」
それが口だとわかったときには、雲雀さんは寝てしまっていた。
「雲雀さん…あの…」
「クフフ…彼なりの別れの挨拶ですよ。」いつの間にか背後に骸が立っていた。
「別れ…?」
骸によると、雲雀が骸と暮らすと決めたとき、風邪一つでもひいたら、連れて帰るという取り決めがあったらしい。
要するに、風邪ぐらいで見舞いに来るわけがない無責任な親 ではなく、風邪一つひいただけで連れて帰るという少々親バカな親だったのである。
「そっか…もう会えないんだ…」
雲雀さんの実家はここからかなり離れた黒曜というところにあるらしい。
だから、ただでさえまともに会えない(咬み殺されるから)のに、離れたら、それは永遠の別れに近い。
「…まあ、それだけではないようですが。」
「…え?何が…?」
「それは本人に聞いてください。」
「でも寝て…」
「クフフ…こう言えば嫌でも起きますよ。」
そう言って骸は俺にそっと耳打ちをして邪魔者は消えますねとかいって部屋から出ていった。
部屋には俺と雲雀さんだけ。
「雲雀さん…」
声をかけてみたが、起きない。
本当にこれで起きるのか不安だったが、やるしかないらしい。
俺は覚悟を決めた。
「恭弥、起きて…」
言い終わらないうちに雲雀さんが反応した。
「沢田…それ…」
「やっと起きましたね。」
「…あの変態南国果実の仕業か。」
雲雀さんの額に皺ができ始めている。
「すっすみません。そんなに下の名前で呼ばれるのが嫌だったんですか…」
「違う…」
そう言って雲雀さんは俺を抱き締めた。
「…嬉しかった。だけど、これがあの変態の仕業だと思うと、腹立たしいだけ。」
雲雀さんの体は熱のせいか思ったより温かかった。
「…雲雀さん…」
サヨナラ、なんですね…?
「…別に帰らなくてもいいんだけど…」
「ダメですよ!!約束なんでしょう?約束は守らなきゃっ…」
言い終わらないうちに涙が出てきた。
雲雀さんはそれを指で拭ったあと、優しく言った。
「…沢田、一度しか言わない。よく聞いて」
「…?はい…」
「沢田のことが好きだ。だから、必ず迎えに行く。もし5年たって僕のこと忘れてなかったら、5年後の今日、僕らが出会った公園で会おう。」
雲雀さんは一息でいうと、少し赤くなってあらぬ方向をむいた。
「雲雀さん…」
忘れるわけ、ないじゃないですか。
「…嬉しいです。5年後、待ってますから。」
「約束だよ?」
「はいっ」
そう言って俺たちは会う約束をした。
それからしばらくしないうちに、雲雀さんは引っ越してしまっていた。

それから5年目の今日、俺は言われた通り、はじめて出会った公園で待っていた。
(もう、10時…か…)
気が付くと、あたりは真っ暗で、街灯と月明かりだけが俺と公園の遊具を照らしていた。
5年前の約束。きっと彼は忘れているのだろう。
例え、彼が俺になんの感情を持っていなくても、俺は貴方のことを好きでいます。
5年前、貴方がいなくなったあと、自分の気持ちに気付きました。
5年たってもその気持ちに変化はありません。
(そう言えば今日って5月5日…)
雲雀さんの誕生日…
「誕生日…おめでとうございます。雲雀さん…」

「下の名前では呼んでくれないの」
暗闇の中から声がした。
記憶の中の声より低くて、懐かしい声が。
自然に涙が出てきて、止まらなくなった。
「…バリさんっ」
俺はその声の主に抱き付いた。
「待たせて、ごめん。」
「大丈夫です。雲雀さん…」

大好きです。
お誕生日おめでとうございます!

(プレゼントは何がいいですか?)
(勿論沢田で)
(え…そんなんでいいんですか?)
(…意味わかってる?)
(…あんまり…)
(そう。とにかく今日沢田に会えたのが一番のプレゼントかな)
(沢田じゃありません)
綱吉です―…



2009.05.06
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