役立たずな僕から花束を2
「うあっ」
視界が赤い。辺りは暗く、黒い。真っ黒だ。
白を求めて手を伸ばすが無駄に終わる。
俺は犯されている。今までは第三者としてだったのに今日の夢は当事者だ。それも被害者。
粘膜と粘膜がぶつかりあう音で悲鳴をあげる。誰も助けてくれない。なのに俺の口からはしきりに誰かの名前が叫ばれている。俺は誰を求めている?こんな俺に誰も助けてくれる人なんかいるわけないのに。
突如腕を引かれ、気が付くと辺りは真っ白だった。
俺はホッとして言葉を吐いた。
「大嫌い」
ハッと目が覚める。大丈夫。此所はボンゴレのアジトの本部。誰もそのボスを犯そうだなどと思わないし出来ない。
しかし今の夢は余りにリアルだった。
確かにそういうアダルトな物を見たことがないと言ったら嘘になるがこういう類いの物は見たことが本当にない。
それに最後の台詞。あれは誰に向けてだったのだろうか。犯された相手だと思うが、助けられて第一声があれだと助けてくれた相手に向けたものかともとれる。
もし後者だとすると助けてくれたのはヒバリさんかもしれない。俺が嫌いと面と向かって言える、言ってしまうのは俺の周りで彼だけだ。
体は拒絶反応を起こしている彼を果たして夢に出すかというと答えはnoだ。
「ま、いいか」
びっしょり汗をかいてしまったためせっかくきていたスーツも着替える羽目になった。
しかしこうなったのは紛れもなく昼寝をしてしまった自分が悪いのだ。
とりあえず着替え終わった俺は仕事が一段落したのと先程の夢で最悪の気分だったので散歩にでも出掛けることにした。
外に出ると見慣れた顔がいた。
「骸、こんな所にいたんだ」
骸はびくりと背中を震わせて此方を向いた。
「これはこれは綱吉君ではありませんか」
一瞬驚いたように見開かれた目はいつものように済ました瞳に戻ったので、俺は声が大きすぎたかもと一人心の中で反省した。
「今、暇?」
「見ればわかるでしょう」
「うん。暇そうだね」
良かったら散歩に付き合ってよ。俺の誘いに骸は二つ返事で承諾した。
最初はお互い仕事の話を避けていたが、だんだん俺の話になり、ヒバリさんの話になった。
「何かさ、俺、ヒバリさんに何もされてないのにこの世の誰よりも憎いんだ」
骸は悲しそうな顔をする。
「俺、ヒバリさんを嫌いになんかなりたくないのに、」
あ、やばい。そう思った時にはもう遅く、一筋目からこぼれ落ちた。
「中学生の頃に、戻りたい」
くしゃりと顔を歪めた。これ以上泣きたくない。これ以上惨めになりたくない。
ヒバリさんに恐れおののきながらも憧れていたあの頃に戻りたい。戻れないのは俺が一番よくわかっている。
「泣きたい時は泣くものです」
綱吉君は弱虫で泣き虫のダメツナですからね。そう言って骸は笑った。駄目だ。俺は人に優しくされる資格なんかない。
「今見たことは忘れますから」
ね。そう言われて抱き締められたらもう我慢が出来なかった。
「大丈夫です。綱吉君は悪くない。彼が一番よく分かってます」
ヒバリさんが。嘘だろう。その場しのぎの慰めだとわかっていても涙せずにはいられなかった。
もうぼろぼろで溺れて動けない俺はこうやって誰かに嘘でも言われたかったのかもしれない。
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