奇跡なんかいらない
出会ったのはほんの偶然。声をかけたのはほんの気紛れからだった。
昔から特に理由もなく苦手な桜の木の下で佇んでいると見慣れない顔があった。
茶色い癖毛の髪の毛。よくもまあそこまで髪を重力に逆らわせたなと妙に感心したのを覚えている。
そんな彼―沢田綱吉と出会って間もなく8ヵ月がたとうとしていた。
遂に恐れていた事が起きてしまった。
札束が机の上に積まれている。要らないよ、こんなもの。そう言いたいのに言えない自分がもどかしくて仕方がない。
『彼はマフィアのボスだ』
『我々の住む所や家族を奪った奴等のボスだ』
口々に彼の悪口を言う。
わかっている。わかっているんだ。だけど耳を塞がなければ気が狂いそうになる。
確かに彼は忌々しいマフィアのボスだが、自分達を破滅に追い込んだのは下ッ端の下ッ端のマフィアだ。彼は関係ない。だてに彼と8ヵ月も付き合ってきたわけじゃない。しかしそんな理由は奴等には通じない。
何か言いたいのだが、口が言うことを聞かない。僅かに震える手でリボルバーを受けとる。ずしん、と重さが腕に響く。きっと実弾が入っているからだけではない重さ。泣きたくなった。
『これで彼を殺せ』
『わかったな』
わかった。わかったからもうこれ以上彼を悪く言わないで。
これ程自分の腕を切り落としたくなったことはない。

あの桜の木の前で銃口を彼に向ける。出会った時は満開だった桜はすっかり葉も落とし、憂いを身に纏っている。
彼は一瞬驚いてからふわり、といつもの笑顔を浮かべた。
「思ったより早かったですね」
手が震える。彼はこうなることを知っていたのだ。知っていて、それでも自分といた。
「どうせ殺されるなら雲雀さんがいいんです」
やっと絞り出して出た声は、馬鹿じゃないの、と呆れたような声。
「最後にキス、させて下さい」
軽く頷いた。泣いてはいけない。悪いのはこうなるのがわかっていて好きになってしまった自分。こうなって命令に従ってしまう自分。まだ死にたくないのだ。命が惜しいのではない。彼といる時間がなくなってしまうのが惜しかった。置いて逝くのは嫌だから置いて逝かれる方を選ぶ自分のエゴに吐き気がする。
そう言っている内に彼は少しずつ近付いてくる。もうカウントダウンはすぐそこだ。嫌だ。来ないで。終わらせないで。声にならない叫びを彼は知っているだろうに近付くのをやめない。そう。全て雲雀のため。ただそれだけ。
何故彼はマフィアのボスなのか。何故自分はマフィアに住む家や家族を奪われ殺し屋などしているのだろうか。所詮やっている事は一緒だ。自分は金を貰い、社会の悪を抹殺する。彼は自分のファミリーを守るため、人を殺める。もし普通の一般人で出会っていたら結末は変わったのだろうか。
温かいキスを唇に受ける。もう冷めるのだ。自分が冷たくさせるのだ。彼の体はこうして生きているのに終わらせなければならないなんて。
「雲雀さん、早く」
そっと唇から彼のそれが離れて笑って言う。
「ごめん」
「俺は後悔してませんよ。むしろ今、幸せです。雲雀さんといれて。愛しています」
涙で霞んで彼の顔がぼやける。
「……綱吉」
彼が笑った。
人差し指が小さく揺れた。
次の瞬間、鈍い銃声と共に弾がなくなったリボルバーが自分の手から滑り落ちた。

ねぇ何で最期にそんな事を言うの。もっと突き放して罵ってくれればこんな後悔なんてしないのに。こんな時でも赤く染まった彼を綺麗だと思う自分は狂っているのですか。

「愛してる……綱吉」
ずっと永遠に。


〈end〉

2010.12.14

GUMIの最リボに萌えて書きなぐったもの。詰め込みすぎ感はあるが、書いてて満足しました。
いつかちゃんと書くかもしれませんがとりあえず読み切りで投下。

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