end of the story2
今の沢田には抵抗する等と言うことは出来ない。
沢田もこのままではいけないとは思うが「えた・ひにん」の自分に出来ることは何もない。
ただ今の状況に歯を食いしばって堪えるだけだ。
皆沢田のことは気にはしているが下手に手を出したらいつ自分に火の粉が降りかかってくるかわからない。
この学校は腐っている。




「…あー」
休んじゃった、とうとう。

沢田は流石に怪我の心配をした母親によって学校を休むことに成功した。
言い方が悪いが実は怪我自体は大したことではない。ただ出血と痣がいつもより多く見えるだけだ。こんなのは許容範囲だ。だから沢田にとってこれは「ずる休み」と同じことなのだ。
しかし気が付かない内に精神を磨り減らしていたのかどっと疲れて二度寝をしてしまい起きたらもう昼ご飯の時間だ。

一度起きてまたボフンとベッドに飛び乗り暫く足をパタパタさせていたが、何をしなくてもお腹が空くのは自然の摂理。モゾモゾとベッドから這い出し頭を掻きながら階段を降りる。
何だか寝すぎも体にはよくないというがそれは本当だと思う。ダルい。微妙な倦怠感が沢田の周りに渦巻いている。常日頃の暴力暴行により体の節々がミシミシと悲鳴をあげている。
そんな重たい体を引きずりながら朝食兼昼食を食べる。
脳が通常の半分程しか働いていない気がする。頭が働かない。とにかく早く食べてベッドに向かおうとしている自分がいる。



誰かが助けてくれるなんて甘い考えはとうに捨てている。
立ち向かう刃向かう等自ら死に行くことはしない。こんなんでも命は惜しい。
それにそんな悪あがきをするやつは馬鹿だと思う。
ただただ堪えて終焉の時を待つしかないのだ。
『学校』に縛られた哀れな奴隷は散々こき使われて使えなくなったら口封じのため始末してから捨てられる。
ただ自分が「えた・ひにん」をしている間は自分に矛先が向かい、自分と同じ目に合う人間はいない。それは断言出来る。
それが沢田の唯一の存在理由。
自分と同じ「犠牲者」を少しでも出さないようにするため自らを差し出す。
これが理不尽な世の中への精一杯の「反抗」。
まさに生きる屍である。
束の間の休息を求め、沢田はベッドへと向かった。

平凡を諦めていた沢田の前に救世主が現れるのはそんなある日の事であった。

彼の名は雲雀恭弥と言う。
別の所から来た所謂転校生で並盛の腐った格差社会のことを知らなかった。当然と言えば当然のことである。
彼の性格は傍若無人で群れ嫌いの戦闘マニアである。故に人の上にも人の下にも就くのを嫌い、元々の戦闘力の高さで反対派を次々となぎ倒し、新たな独裁社会を築き上げていった。しかしそんなことは沢田にとってはどうでも良いことだった。どうせその世界でも一番下に決まっている。

「君が沢田綱吉?」
いつものようにHR中の自由時間を利用して束の間の休息をとっていると不意に後ろから声をかけられた。
「そうですけど」
「ふーん」
雲雀は沢田の頭の先から足の先までをじっくり見たあと、興味がなくなったとでも言いたげに欠伸をひとつした。
「君さ、このままでいいと思っているの」
「思ってるわけないじゃないですか」
こんな絶対服従の関係を進んでやるわけがない。沢田はただ平凡な毎日が欲しいだけなのにそれすら叶わない日常。
「じゃあ今から並盛の秩序は僕だから」
じゃあがどこにかかるのかわからないが、要するに絶対服従の相手が変わるだけということだ。今までの苦悩の日々がなくなるわけではない。
黙り込んでしまった沢田を見て雲雀は溜め息をつく。
「勘違いしないで。君を下僕にするほど僕は落ちぶれてはない」
さりげなく馬鹿にされている気がするが、この際聞かなかったことにする。
「じゃあ下僕以下なんですか」
嗚呼きっと同情の表情を浮かべているのだろう。中途半端な同情は要らない。そう思って顔をあげて彼の顔を見るが、無表情だ。何も感じられない。
「君は僕の隣にいればいい位とか関係ない。君が欲しい」
今から考えると中々な爆弾発言だが、沢田の耳にはそういう意味には聞こえなかった。
初めて『えた・ひにん』ではなく人間としての沢田綱吉として見てくれている。彼の目に嘘や偽りは含まれていない。鼻の奥が熱を持つ。
この時初めて雲雀は僅かに笑顔を見せて沢田に向かって手を差し出した。
視界が歪む中、彼の手の体温だけがはっきりと感じられた。
目を閉じた。
もう大丈夫。そんな声がした。


〈end〉

2010.10.16


これは一年前に書きかけのまま放置されていたものです。本当はこれから並盛を支配している骸と雲雀が戦って雲雀が勝って生徒会や風紀委員会を新しく作り、骸は並盛を追放され、黒曜に身を寄せて腹心の部下と復讐の機会を窺うみたいな話を考えていましたがそうするととてつもなく長くなってしまうので(そのせいで放置していたのもあります)とりあえずツナを幸せにして終わらせます。

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