end of the story
誰が始めたのか並盛中には不思議な制度がある。
それは生徒を狂わせるには充分なものだった。


「はあ」
沢田は軽くため息をついて学校へ向かう。その足取りは大変ゆっくりだ。
「また今日も来ちゃった、な」
道行く人々が彼を見たら一目瞭然だろう。彼は明らかに学校へ行くのを嫌がっている。ただそれでもサボるということをしないだけ大したものだ。いや、彼の場合はサボるとしっぺ返しが必ずと言ってもいいほど来るのを痛いほど知っている故サボりにサボれないのだ。
そうこうしているうちに学校に着いてしまう訳で沢田は強く拳を握りしめ校門を潜る。僅かに下を向き汗をうっすらかきながら。
下駄箱で靴を履き替える所迄は他の並盛中生徒と変わりはないが上履きを履き替えたら彼はHRが終わるまでフリーになる。いや、正確に言うとHRの間は教室に入れない。廊下で終わるのをひたすら待っていなければならない。
何故なら彼は「えた・ひにん」だからだ。この言い方だと語弊があるので訂正しておく。並盛中で彼は「えた・ひにん」という身分に箸を置いているのだ。勿論彼が進んでその位についた訳ではない。
並盛中には不思議な制度がある。誰が始めたのかいつからあるのかわからない。それは一般的に「階級制度」というものだ。
一番上が「天皇」、その次が将軍、その周りを大名が囲み(勿論大名にも色々あるがここでは割愛しておく)後は士農工商となりえた・ひにんと続く。
位が低い者は当然上の位の人間には逆らえないしどんなに理不尽な要求をされても応えなければならない。
所謂「力関係」を「身分」という明確なもので表しているのだ。なんと滑稽なことだ。
さて、私的な話が長くなってしまった。今説明したように沢田は一番位が低い「えた・ひにん」なのだ。小学生の頃からダメツナ呼ばわりされて馬鹿にされてきた彼が一番位が低くなるのは最早当たり前の話だ。彼自身も諦めている。そうなる運命なのだと。
そもそも彼は並盛中に入学するまでその制度を知らなかった。否、皆知らなかったのだ。この制度を口外することは暗黙の了解で固く禁じられている。卒業してからもだ。うっかり口を滑らしたが最後、死ぬより酷い目にあわされるという根も葉もない噂がたっている。
何故根も葉もないと言えるのか。未だその「粛清」された人物は居ないようだからだ。少なくとも噂にはなっていない。
生徒はこの見えない恐怖に縛られ日々怯えながら学校生活を過ごしている。


因みにその制度は入学式の後、教室に生徒が集まった時教師が説明するのだ。
位を決めるのはいたって簡単。多数決だ。
勿論クラス名簿一覧と位配分表、詳しい説明の書かれたプリントが配られ、無記名で名簿一覧表に妥当な位を一人一人書いていく。
並盛中は公立なので周辺の小学校から殆ど持ち上がりで来るので顔見知りが非常に多い。
万が一知らない人がいても顔を見て適当に書く。
一見教師がこの制度を率先して生徒に実行させているように見えるが、教師とて生徒と同じく見えない恐怖に怯えているのだ。逆らったら教師だろうが誰だろうが関係ないのだから。
こんな制度はあってはいけないと誰もが思っているが今まで表立って言われたことがないのはそれ所以でだ。
ところで並盛中のHRはやたらと長い。こんなに説明したのにまだ終わっていない。いや、始まったばかりと言った方がいいだろう。
沢田は本当なら廊下にずっといなければならないが生憎彼と同じ身分の人はいない上、どこも今HR中なので誰も廊下に出てこない。
沢田はこの自由でないようで自由なこの時間が一番好きだ。
折角自由なのだからと沢田はこの時間を利用して学校探検をしている。

勿論今日とて例外ではない。だから沢田は今こうしてふらふらと歩いている。

このHRの終わりを告げる鐘、それが彼にとっての地獄の始まりを告げる鐘。
しかし本当の地獄は此れからだった。


「ただいま」
「お帰り。あら、ツー君どうしたのその怪我?」
「ああ、これ?ちょっと転んじゃって」
沢田は赤く熱を帯びている頬を触る。
「そう。気を付けなさいよ」
はあいと生温い返事をして自分の部屋へと続く階段を登る。
部屋に着くが否やドサリと重たい鞄を肩から下ろしベッドへダイブだ。
しばらくゴロゴロしていたがそれも飽きて軽くため息をつきながら起き上がって着替え始める。
まだ頬は熱い。
勿論読者は御存じだろうが沢田は転んだのではない。
殴られたのだ。「農民」に。
運悪くその「農民」の機嫌が最悪に悪かった時に階級が下の沢田が通りかかり殴られた。日常茶飯事な事だ。
だから沢田は常に生傷が絶えない。


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