たまには(2010年ツナ誕)
「何度言ったらわかるんですか」
「わかるもわからないも馬鹿なのはそっちだ」
只今の状況。沢田は雲雀の腕の中にすっぽりハマっていて中々抜け出せないようだ。
仕事をしようにもこの状態では身動きがとれない。
「いい加減離してください」
「だれが草食動物の命令を聞くって言うのさ」
「貴方です!」
「聞くわけないだろ」
嗚呼もうこの人のマイペースさには慣れたつもりだったが、やはりついていけない。
突然ノックもなしにこの部屋に入ってきたと思ったらこの状況である。沢田にとって勘弁してほしい状態なのである。
彼とのスキンシップも嫌いではないが、今かよと言いたくなる。勿論命が惜しいのでそんな事はおくびにも出さない。
「仮にもボスなんですよ」
自分で仮とか言っている時点でどうよと沢田は自分自身に突っ込んでみる。ただ虚しいだけだが。
「僕には関係ないね」
昔ならはいそうですかどうぞご勝手にと言えたのだが、今はそうはいかない。これ以上書類をためていては赤ん坊が持つ黒光りがこめかみに当てられる。
「沢田綱吉は沢田綱吉だ。ボスだかボンゴレだかは僕には関係ない。沢田綱吉は僕のものだ」
また持論を展開する。
「貴方には関係なくても俺には関係あるんです」
だんだん腕の拘束が強くなっている。息をするのも辛い。目で訴えてみるが聞く気はなさそうだ。
「今日から三日間はずっとオフだ」
「断定ですか」
勿論そんな筈はない。今日だって普通にボスとしての仕事がある。
「赤ん坊にはちゃんと許可貰ってきた」
というか元々予定をあけるつもりだったみたいだけどね。
そういってひらりと一枚の紙を見せる。
そこには今日から三日間空欄が空いている予定表だった。
「どうしてですか」
はあと溜め息をわざとらしくつかれた。軽く頭に来る。
「鈍い鈍いとは思っていたけれどまさかここまでとは思ってなかった」
「だから何の話ですか」
少し殺気を込めた目で睨まれる。大体俺が何したってんだ。
勿論彼には言わない。所詮普段の沢田綱吉はヘタレなのだ。
「今日は何日だ」
「えーっと」
沢田は視線を宙にさ迷わせる。
今は確か10月で。
「10月14日……」
自分で言って気付いた。そうか。
「誕生日……」
冷や汗だらだらの顔を雲雀に向ける。彼の顔は呆れ半分怒り半分といった所だろうか。
「鈍すぎ」
プニッと鼻の先を摘ままれる。只でさえ少々息苦しいのが更に苦しくなる。窒息死してもおかしくないだろう。
「最近忙しかったんですよ」
そう。最近は本当に忙しく、例え誕生日だと知っていても祝う時間すらないのはわかっていたので敢えて何かをすることはなかっただろう。まあ毎年のように獄寺が夜にプレゼントを差し入れてくれる位だと思っていたに違いない。
「これは赤ん坊からのプレゼントだ」
先程見せたプリントを放り投げる。もう少し大事に扱ってほしいが彼の辞書には他人を気遣うという文字はない。
「そしてこれは僕からのプレゼントだ」
やっと拘束を緩め沢田を解放する。
そして足りない酸素を求め深呼吸している彼に向かって左手を差し出す。
恐る恐るその手をとると指と指が絡まる所謂恋人繋ぎというものになった。久しぶりの彼の体温に体が熱を帯び始めるのがわかる。
「どこ行きたい?」
右手にいつの間にか握られていた一枚の紙を沢田に見せる。
それを暫く見つめていた沢田は顔をあげて照れを隠すような笑顔を作った。
「とりあえず外に出たいです」
雲雀もいつもの獲物を狩る野獣のような笑みではない笑みを浮かべる。
「了解」
雲雀はその紙も同じように放ると部屋の外へ沢田と共に消えていった。
バタンと扉が閉まった。
床には二枚の書類が落ちている。
一枚は14日から三日間空欄の沢田の予定表。
もう一枚は同じく14日から三日間空欄の雲雀の予定表。

沢田綱吉、19歳の誕生日の事である。


〈end〉

2010.10.14
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