ガタンゴトンと音を出して電車は進んでいく。その電車は様々な人を乗せては降ろす。沢田もその中の一人だった。
彼は今日から今まで聞いたことしかなかった場所へ行かなければならない。
窓には外の景色が目まぐるしい速さで映されている。
突然アナウンスが流れ、駅が近いことを告げる。しかしそんな放送は彼の耳には入っていなかった。
たった二両で走るこの電車はさらにスピードを落としたのでただ座って外を眺めていた彼にもはっきりと景色を眺めることが出来た。
「人がいる」
始発であるこの電車。外はまだ薄暗く、人気も感じられなかった。
しかし沢田は見たのだ。満開の桜の中、一人立ちすくんでいる少年を。顔は正直はっきりとは見えなかった。しかし今はもう珍しくなっている学ランを肩にかけ、少年は桜が舞う中立っていたのだ。
沢田はなんとなくほっとした。
そしていつの間にか停車していた電車が動き出し、少年の姿は桜の陰に隠れて遂には見えなくなってしまった。
電車の中にいるのは沢田のみとなった。それでも電車は沢田を運ぶために動く。
そしてアナウンスが終点を告げた。
電車から降り、改札機を出るとあたりは住宅街だった。沢田はポケットに入れていた地図を握りしめ、見たことのない土地に足を踏み入れた。
今日からここが俺の住む街。そう言い聞かせて。
方向音痴ながらも電柱や案内板を頼りに目的地に着いたとき、辺りはすっかり明るくなっていた。
沢田の目の前には大きい、とは言えないが立派な一軒家がたっていた。
ごくんと喉をならして僅かに汗ばんでいる右手を伸ばしてインターホンを押す。
音が鳴ってしばらくするとカチャリと鍵穴を回す音がしてドアが開いた。
彼の予想を反し、中から出てきたのは同年代の少女だった。
彼女はむごんで沢田に中に入れと言っている。
彼も無言でドアの中へと足を踏み入れた。
沢田の背後でバタンとドアのしまる音がしても彼は一度も後ろを振り返らなかった。
さよなら〈end〉
2010.05.18
リハビリに昔に書いた作品を多少加筆修正してupしてみました。
多分このあとツナと骸とクロームと雲雀さんの同居生活が始まるみたいな話のつもりだったのでしょうけど、続きは今のところ考えていないのでとりあえずここまでです。雲綱と言い張りたいです。
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