森から出るとき、二人は手をしっかりと繋いでいた。ヒバリ曰く「また君が迷ったりすると迷惑だから」ということらしいが、ならなんで繋いでいる手がこんなに熱いんだろう。
そしてヒバリは沢田がヒバリとはぐれた場所まで案内する。「ここから動かないでよ。すぐ戻ってくるから」と言い残し、ヒバリは人混みの中に消えていった。
それから間もなく「沢田!」と慌てた様子でヒバリが戻ってきた。
「こんなところにいたんだ…」
息を切らしながらヒバリはそう吐き捨てた。
「え。だってヒバリさんがさっき此処にいろって言ってたじゃないですか」
ヒバリは顔を上げるとは?とでも言いたげに眉を上げた。
「僕はそんなこと言ってないよ」
「だって森の中まで来てくれて…」
「森?何それ。そんな所には行ってない」
話がまるで噛み合わない。ヒバリによると、彼は沢田とはぐれた後、必死に人混みの中を探していたが、森なんかには入っていないと言う。沢田はもう訳がわからない。
でも取り敢えず夏祭りを楽しむことにした。
それからはショバ代回収も終わったらしく普通に祭りを楽しんだ。
(あのヒバリさんは一体何者だったんだろう)
ヒバリに買ってもらったわたあめをくわえながら考える。
もしもう一度会えたらお礼が言いたい。お陰で本物のヒバリに会えたのだから。
沢田は握られている手を力を込めた。あの偽物のヒバリと同じように繋いだ手は熱を帯びていた。
その日の帰り、もう一人のヒバリについて嬉しそうに話す沢田に嫉妬して見事お持ち帰りされてしまったということは、二人だけの秘密。
〈end〉
(爛華様に捧ぐ)
2009.08.29.
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