蜘蛛に捕らわれた蝶4
唇に柔らかい感触が走る。

自分のものでない、なにかが。

それがキスというものだと理解するのに時間はあまりかからなかった。



「なっな…」

「まだ言わないつもり」

バレバレなんだよとでも言いたげに黒は俺から離れる。

嗚呼、多分俺今、真っ赤だ。


もう言わなきゃいけないのかもしれない。


「…気持ち悪がりませんか」

「内容による」

ガンッて頭を殴られた気分になる。内容によるって今からする話はふつうは気持ち悪がる。だけど多分俺の気持ちはバレている。
と言うことは気持ち悪がりは多分しない。しかも俺からの言葉を待っている気がするのは自惚れか。

「…俺、雲雀さんのこと…その…好きです」

言った。言ってしまった。もうやけくそだ。後悔なんかするもんか。

「やっと言ったね」

「…?」

やっととはどういう意味だ。もうとっくにバレていたのか。

意味深な発言をしたその人はフ、と嘲笑うかのように笑いながら俺の体に腕を回した。

「捕まえた」


嗚呼、捕らえようとしていたのは俺なのに捕らわれていたのは俺だったのか。


「もう離さない」

蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶は静かに涙を流す。

でもそれは悲しみの涙なんかではない。捕らえられたということに対する歓喜の涙であった。


「離さないで下さい」


〈end〉

(風音様に捧ぐ)

2009.07.16
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