Don't touch me!



『暫くはっ、お、お触り禁止です!』


唐突に、僕の恋人からお触り禁止令が出た。
そしてそれが発令してから3日という時間が経過した。つまり、3日も彼女に触っていないのである。
1日目は全く問題は無かった。2日目もそれなりに平気だった。しかし、3日目ともなるとそろそろ辛い。


暫くっていつまでですか。
堪らず情報の開示を請求したが、首を大きく横に振られ、挙句の果てに逃げられた。
一拍遅れて追いかけると、何故か自分のバディに怒られた。
―――…理不尽だ。


「どうして僕がおじさんに怒られなければいけないんですか。おじさん、関係無いでしょう」

「関係ねぇこともねぇだろ。こっちは助け求められてんだから」

「リオもリオです。何で逃げるんですか」

「だだだって…!バーナビーの顔怖かったから…!」

「暫くはお触り禁止だなんて、おじさんならともかく僕には無理です!」

「オイ、バニー。そこで何で俺を引き合いに出すんだよ。俺だってまだまだ現役だっつーの!」


虎徹の背中に張り付くリオが途轍もなくいじらしく見えて、今すぐにでも押し倒しその体を貪りたい衝動に駆られるが、自分は駄目で虎徹には平然と触れていることが非常に面白くない。


「…せめて、せめておじさんに張り付くのは止めませんか?」


溜息を吐きつつも、できる限り怒りを押し殺して優しく声を掛けた。つもりだった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ謝るから怒らないでーっ!」


光の速さで走り去って行ったリオに茫然自失。
自分としては怖がりなリオを怖がらせまいと最大限に努力したつもりだった。自分では。
宥めて賺して、あわよくば接触できると踏んでいたバーナビーの計画は不測の事態を前に脆くも崩れ去った。


「バニー、ありゃあ誰だって逃げるって…」




『おおっと!此処でバーナビーの登場で華麗に犯人を逮捕だー!』
『今日のバーナビーも絶好調だ!』


TVリポーターの声が、妙に耳につく。
理由は分かり切っている。だからこそ声高に言いたい。『バーナビー・ブルックスJrは絶不調である。』と。


「あー、帰りたい…」


また、1日が経ってしまった。


「…帰りたい」

「…出勤直後に言うなよ」

「出勤直後じゃなければ良いんですか」

「バニーちゃんの屁理屈男」

「屁理屈じゃありません。正当な理屈です」


デスクに突っ伏して帰宅欲求と屁理屈を繰り返し吐き出すバーナビーに正直、辟易する。
朝からテンション急降下なこの状況が身に痛いとひしひし感じる虎徹であった。

帰りたいのは寧ろ…―――


更に、1日を経た。
精神的負荷が大きい。しかし、身体的影響が小さいのは唯一の救いだろうか。
休憩時間を使って彼女の元へ足を運べば、普段通りの彼女がそこにいた。
多少は彼女にも変化があるのではないかと予感して来てみれば、何ら変わりの無い彼女が今日もにこやかに座っていた。


「リオ、せめて理由を教えてください。セックス禁止の理y」


白い頬に、季節外れの紅葉が一枚。


「…バニーちゃんも馬鹿だなァ…おじさん、呆れて物も言えないわ」

「馬鹿じゃありません、バーナビーです。人語を発している時点で物を言ってます」

「八つ当たりか?バーナビーちゃん」

「バーナビーじゃない、バニーです!…あれ、」

「…ぷっ、くくく…今日のバニーちゃん最高」


人の顔を見てケタケタ笑う虎徹に思わず腹が立った。
その上揚げ足を取って哄笑されては、苛々が頭痛に変換されてもおかしくはない。


募るストレスを相手に闘争を繰り広げて早2日。
遂に1週間が過ぎ去ってしまったのである。


「リオ、もう我慢できません!理由も無くセックス禁止だなんて酷過ぎます!」

「バ、ちょ、待って!待ってよ、バーナビー!」


終業時間ジャストに彼女を迎えに行ったは良いが、やんわりと断られたので、そのオブラートに包まれた拒否を聞かなかったことにして、自宅に引っ張り込んで押し倒してみた。
流石に1週間ともなれば、精神は元より身体的にも耐え難いものがある。


「セックスどころか触ることも禁止するなんて、僕を殺す気ですか?」

「だって貴方触り出したら全部するまで離してくれないから!」

「リオが扇情的だから仕方ないです。言っておきますが、これは生理現象です」


あくまでセックスとそれに至る過程を生理現象で片付けるバーナビーにリオは呆れにも似た感情を抱く。
反論したい所ではあるが、半分は正論で、しかも相手は口達者と来た。何を言われて丸め込まれるか分かったものではない。要するに沈黙は金、である。


「沈黙は承諾ということで良いですね」

「……。って、ちょっ待っ!」


馬乗り状態で服を脱がしに掛かられては逃げ場が無い。
ネクストであれば脱出可能なのだろうが、リオにそんな素晴らしい能力などある筈がない。


彼の手が下着に掛かったその刹那に、怒号に似た声が飛んだ。


「生理なの!」


彼はまるで蛇に睨まれた蛙のように硬直し、まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をして御出でだった。


『どうしよう?この状況』

End.
11/11/11
▽おまけ

「…では、バスルームでしますか」

「あと、ちょっと…1週間だけ待ってください…」

「貴女のちょっとは長いです」

「えと…あの…ごめんなさい」

「良いですよ。貴女の頼みとあらば何だって聞き入れます」

「あ、じゃあ…離してもらっても…?」

「それはお断りします」

「………。」


▽後書き
バニーが頭の弱い子になってしまった。反省。
…は、しない(ドヤァ
ほんと自分生理ネタ好きだな、と思う。毎度生理ネタで遊ぼうとするし。



[*前] | [次#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -