岡崎しょうすけ。
絵の具を借りに来た一年生の少年は、そう名乗った。
「ありがとうございます!あとで、ちゃんと返しに来ます!」
今時の子供には珍しく、礼儀正しい良い子。
元気よく教室に戻っていく彼の後ろ姿を見て、
「食べてしまいたい。」
…そう強く思った。
放課後、しょうすけ君は約束通り絵の具を返しに来てくれた。
「ありがとうございました!」
「此方こそ。ちゃんと返しに来てくれて有難うね。良い絵は描けたかな?」
彼はちょっと俯き悲しそうな顔をした。
「あ…えと、僕…おえかきへただから…」
「…?フフ、そんな悲しい顔しなくてもいいんだよ。絵は楽しく描ければいい。上手い下手は関係ないんだから。」
ポンポンと頭を軽く撫でてやると、彼の顔は明るくなった。
「ん…でもそうだな、折角だからお話していかないかい?絵について、少し教えてあげよう。」
「は、はい!」
彼は喜んで準備室に招かれた。
私は彼をソファに座らせてから、ジュースとお菓子を用意した。用意している間、彼は準備室にひしめく画材や石像、書籍をキョロキョロと見渡していた。
「珍しいかい?」
「しょくいん室と、全然ちがくて…」
「はは、確かにそうだね。…さ、どうぞ。」
林檎ジュースとドーナツを差し出すと、彼は喜んでそれに手をのばした。ドーナツを美味しそうに食べる姿は、女の子の様に可愛かった。
「…。」
「…?先生?どうしたんですか?僕の顔…何かついてます…?」
「え?ああいや、ごめんね。食べてる君がとても可愛くてつい、見とれていたよ。」
そう言うと彼はボッと真っ赤になり、慌てて俯いた。
「は、はずかしいです先生…///」
「はは、ごめんごめん。」
可愛いと言われるだけで赤面する彼を、私ははやく食べたくて仕方なくなった。
「…しょうすけ君、一つ聞いていいかな?」
「?」
「絵を…上手く描きたいんだよね?それは何故だい?」
「あ、あのね…えと、、叔父さんを上手に…かきたいの///」
「おじさん?」
「ウン、浩二郎叔父さん!大好きな叔父さんを上手にかいて、その絵を叔父さんにあげたいんです///」
「…なるほどね。」
「あ、あの…ジュース…」
「あはは、そんなに緊張して話していたのかい?はい、おかわり。」
林檎ジュースを注いでやると、彼はコクコクと飲み干した。
「しょうすけ君、」
「は、はい」
「絵を描くときに大事なこと、何だかわかるかい?」
「…?」
「対象となるものをよく知ることだ。」
「よく、しる…?」
「そう。じっと見つめたり、また、触れるものはよぉく触ってね。」
「よく、さ…わ……ぅ」
突如、彼の表情はトロンとしたものになった。
「どうした?大丈夫??」
「ふあ…せ、せんせ……なんだか…ねむ、く……」
言葉の途中で、彼はクテンとソファに倒れるようにして眠ってしまった。
「しょうすけ君…?」
問い掛けても、起きる気配はなかった。
「…お話の続きは、身体にしてあげるからね…♪」
そう。
これは私の計画。
睡眠薬入りのジュースを片付け、眠る彼をおんぶして準備室を後にし、職員駐車場へと向かう。
「さぁ、君はどんな味がするんだろうね…♪」
自宅へ走らせる車のアクセルにも、力が入った。
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