DRAMATIC IRONY_07 | ナノ
07



黒い陰が触手を伸ばし、その子どもに迫る。子どもはそれを紙一重で何とか逃れて走る。はっきりと何が起こったのか認識することは出来ないが、子どもは何としてもそれから逃れなければならない事を理解していた。雨上がりの道は足元があまり覚束ないけれど、子どもは走る。走る。
けれどもその子どもが幾ら全力で走ってもそれは容易く追いつく。子どもは必死で走ったけれども、それは無駄なことだった。黒く光るそれが子どもの足を今まさに掴む。


アレン・ウォーカーは急に起き上がった。嫌な夢に額には嫌な汗が流れて居る。彼は左手でそれをそっと拭う。ふと気になって、その左手を眺めた。寝る時まで嵌められた手袋を外した。赤い筋の浮き出た皮膚は今までどれ程の人に疎まれたことか。彼はそっと右手でそれを撫でてみる。酷くぼこぼこしていてとても心地よい手触りとは程遠い。その時彼はようやく部屋が嫌に静かなことに気がついた。ルームメイトの気配が微塵も感じない。部屋の時計を見るともう8時を回っていた。





「ねえ、聞いた?うちの学生を狙った恐喝事件が起こってるって」

「学校中に広まってる。うちのクラスの子も被害にあったって。休日出歩く時に繁華街で」

「こっわ!」






「セーフですね!ウォーカーさん」

アレンが教室に駆け込んだのと同時にチャイムが鳴った。隣の席の蝋花が声をかける。

「二日目から寝坊しちゃいました」

アレンは苦笑いしながら席に座る。
「昨日遅くまで何してたんだ?」と道具を出しながら周りも後ろの席の李珪は茶化す。すると見計らったかの様に厳かに教室の扉が開いた。
ハワード・リンクがホームルームを終えるとアレンを教室の外に呼び出し、またいつぞやと全く同じ形状の黒い封筒を手渡す。前回渡した時とは違ってアレンは顔色を変える様な事はなく冷静に受け取り、その場で開いて中身を確認するとポケットにしまって教室の中へと消えて行った。









職員室の隣の突き当たりの部屋が生徒会室に当たる。放課後になりアレンは昨日あの後生徒会室の他のメンバーに紹介された。メンバーには知った顔のリナリーが居てアレンは喜んだ。
生徒会室の扉を開けると見知った黒髪のルームメイトの姿があった。

「何でてめえがここに居やがる」

さも忌々しげに睨みつけするとリナリーがぽすんと軽めではあるが音を立てて持っていた紙束で叩いた。

「同じ生徒会の仲間にそんな言い方はないでしょ」

その言葉でアレンは昨日外して居ると言われた議長が誰であるかをやっと理解した。

「ウォーカーも大変だな。早速神田先輩に嫌われて」
書記の李珪が面白そうな顔をする。
「とにかく皆で仲良くしようじゃないか」
会計のシィフが続けた。

二人はアレンに学校生活はどうかと訪ね、リナリーも混じって雑談を始めた。神田だけは仏頂面でリナリーが振っても会話に混じる事はしなかった。しかし話題は学校を騒がす恐喝事件の方向に転がる。

「うちの生徒を狙ってるらしいんだ」

「もう何人も財布を取られたらしい」

この界隈にはこの学園以外にも学校が幾つかある。その中で私立で富裕層の子どもの多いこの学園を狙うのは分からない事ではない。けれども私服ではうちの生徒と見抜く事が果たして出来るだろうか。けれども被害にあった生徒の話では犯人はうちの学生では無いという。このままでは週末の外出許可が降りなくなる可能性すらある。

「じゃあ生徒会で犯人を捕まえてやろうさ」

背後から声がした。遅れて来た会長は強かに笑った。





back/long
アレンのセリフが少ない・・・・・・。この小説のアレンはいい子だが何を考えているかよく分からない子です。だから心理描写は控えめ。会話の描写は大変ですな。最後の展開が急すぎるかな。後でちょろっと直すと思ます。




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