DRAMATIC IRONY_06 | ナノ
06
夏休み明けの文化祭から世代が交代して後輩たちが新しい学園を作ってくれることになっている。それまでは仕事は3年生が主体で行い徐々に引き継ぎの準備をするのが習わしであった。
入学式の日からの腐れ縁のラビに誘われたのをきっかけに神田もこの役職を全うすることになった。肩書きは議長。神田の幼馴染みのリナリーも何の縁か同じ生徒会に属し、副会長の役職をしている。業務としては総会以外は専ら会長の補佐と不本意な仕事ではあるが、剣道部部長の役職と掛け持ちであることを踏まえると申し分のない役職である。
入学早々から神田は注目を集めた。中学時代に剣道の全国大会で優勝した経歴と丹精な顔立ちは皆の目を惹くのに十分だっただろう。けれども彼は目立つのは好きではなかった。その頃の彼は成さねばならない目的ができたばかりだったのだから。
神田ユウには兄がいた。双子なので綿密なものではなく書類上の物でしかないのだけれど名前を、アルマと云った。
ユウとアルマの両親は二人が幼い頃に何者かの手によって殺害された。ユウが友達と遊びに出かけていた隙に。 ちょうどその日はクリスマスで、神田と違って内向的で母親にべったりだったアルマはユウの友達とは馬が合わず、クリスマス用の料理を作るのを手伝うと言って家に残った。
大きなクリスマスの赤と緑に彩られた街は賑やかで気分が良く、ついつい長く遊んで暗くなってしまったので母のトゥイに叱られないか、クリスマスのプレゼントをアルマに取られはしないかとドキドキしながら家に帰ったのだ。家に着いた時、明かりは灯っていなかった。妙だと思ったけれどもクリスマスツリーの電飾やキャンドルを楽しむために意図的に消したものなのだと自分を納得させて家に入った。入って直ぐに、何かが焦げる匂いがした。ただいまと言っても返事がない。出掛けてしまったのだろうか、そう思ったが玄関の鍵は空いていたのを思い出した。 静かな屋敷。出かけるまではアルマと父と母、三人の声で賑わっていたと言うのに。
嫌な予感がして、急いでキッチンに向かう。オーブンを見れば黒くカリカリに縮んだチキンがあって、なんだ、これでは食べられないなと残念に思った。母さんは一体何をやっているんだっけ。
キッチンから隣のリビングに向かった。すると、テーブルにはケーキがあった。ブッシュ・ド・ノエルだ。クリスマスツリーの電飾がきらきらと鮮やかだった。おもわず脂汗が流れた。歩を進めると、足元にどろりとした液体がこびり付いた。ああトマトジュースを零したんだ、そうに違いない。ユウはそう信じようとした。さらに背中には脂汗が流れている事にユウは気づいていない。鮮やかな赤がフローリングに敷かれたカーペットに広がっていた。
その上には見知った顔であるはずなのに見た事のない奇妙な表情を浮かべ、赤に彩られた男女が転がっている。それが何であるか、考えてはいけないと心が告げていた。まだ理解しきれず口をもごもごさせ小さな声が幾つも零れた。けれどもいつまでもそうしていることは出来なかった。
「アルマ!」
ユウがその声を聞き取ったのは全くの偶然だった。ひょっとしたらそれは声ではなくただの息遣いであったかもしれない。部屋中を駆け回ってアルマの姿を探した、するとソファーの裏に身体を横たえていたアルマを見つけた。さわればまだ暖かく、ひょっとしたら命がけで両親が隠したのかも知れない。その目には涙の跡がくっきりと残っている状態で眠りに着いていた。
アルマは犯人の顔を見ていた。鑑識課に勤めていたティエドールがアルマの証言をもとに似顔絵を作成した。もちろん、混乱したのに加え当時7歳だったアルマが犯人の特徴を正確に伝えるのは難しく、時が経つほどに記憶は曖昧になるので、結局犯人は捕まっていない。とりあえずわかる事は犯人が黒髪で長身の男性であるという事だけだ。ティエドールはあれから10年も経って定年退職したので知り合いに頼まれて現在の務めを果たしているのだと聞いた。それがユウとアルマが進学先に選んだ学校だったのだから偶然とは奇妙なものであると思う。
アルマにとってはその事件がトラウマらしく暫くは一切ものを食べなかった。ユウは両親を殺しアルマをこんな目に合わせた犯人が許せず、思い出す度に悔しい思いが押し寄せて胸が苦しい。ユウは何としても犯人を捕まえてやりたいと願った。
まだ3年も経って居ない。アルマはユウと同じこの高校を受験して、ユウより良い成績で合格した。けれども、彼が入学することは無かった。彼は死んだのだ。
川に落ちたのだと言う。警察は事故だろうと断定した。アルマは泳げないのに何故冬の川に近づいたのかユウには全く分からない。考えるとひどく嫌な空想しかできない。
神田は罪を許さない。その影に悲しむ人があることを彼は知っているから。表向きには警察官を目指していると偽っているけれども、両親とアルマを殺した犯人に復讐すること、それが神田の野望だ。例えそれが犯罪であろうとも。この二つの事実は矛盾しているけれどもそれが神田の真実だったのだ。
最初の計画ではアルマ出せないかと思ったが何とか盛り込めた。ティエドール元帥はまだちょくちょく出していきますよ。バクちゃんの両親をユウとアルマの両親にしちゃった。まあいいか。