05




昼食時間を告げる鐘の声とともに学食には大勢の人が押し寄せ賑わいを見せ始める。先ほどまでひっそりと静まり返っていた様子など、まるで微塵も感じさせない。授業時間に縛られないのは3年生の特権だ。一足先に学食に来てランチを食べ終えたラビは時間を持て余してただぼうっと人間観察をし始めた。すると見知った顔がやっと現れる。軽く手を振ればしかめっ面をしながらも向かいの席に腰掛けた。

「それって変じゃねえ?」

昨日の寮での出来事を神田から聞かされたラビは思ったままを呟いた。言い終わるのを待たない内から舌打ちをして見せる神田の眉間の皺はいつにも増して深い。

「やっぱり何かあるんじゃねえの?暴力沙汰起こした奴で監視とか。ユウの腕っ節は有名だからなあ。ゴツいやつ?」

 グラスに入っている水が揺れる。

「モヤシだ」

 神田の目線がおかしな方向を向いたので思わずラビも神田と同じ方向に視線を向ける。なるほど、目線の先には白髪の子供がいる。数人のクラスメイトと一緒に昼食の様子だ。遠目だからはっきりとは見えないけれどもその外見はとてもよく目立つ。












夏場の昼は長いと言っても正午に比べれば微かに陰っても来るだろう。生徒は部活動に興じるため、校舎の人影は疎らで仕事のない教員たちも職員室を離れていた。小テストの採点をしていたリンクは後ろに人影を感じ振り返る。

「これ、校長先生が担任の先生に出せって言った書類です」

アレン・ウォーカーは持っていた丈夫な紙をリンクのデスクの上に置いた。

「君は部活見学には行かないのですか?」

受け取った紙をしげしげと見た後に彼の方をみる。他愛もない雑談、そんなつもりで。
この学園は原則として1年生はどこかの部活動に所属するのが決まりだ。しかしアレンは前の学校で部活動をして居なかったと聞き気になったのだ。けれどもアレンは沈黙のままで、考えて居ないのかもしれないなと思った。

「そうそう・・・・・・」

リンクは机の引出しから黒い封筒を取り出した。

「理事長からですよ」

最初は怪訝そうにしていたアレンだがそう聞くと表情が変わった。それは分かり易い露骨ものではなかったのだけれど、確かな筋肉の強張りがリンクには分かったのだ。封筒を受け取りながらリンクを上目に見る。アレンは素早く身を翻して職員室を去っていく。
微かに震えるのを精一杯悟られまいとする彼の背中をリンクはそっと見ていた。

職員室から出て直ぐにアレンは担任から渡されたその黒い封筒を開ける。直ぐに開ける割にその手つきはゆっくりなのが分かって、思わず自嘲する。
「なんだ、結局怖いのか」

その時、背後から足音が聞こえた。アレンは持っていた封筒をポケットにしまう。職員室に用事がある生徒かと思ったがどうやらそうでは無いらしい。何故ならアレンの丁度1メートル後ろで歩む足を止めたのだから。





「なあ、こんな時期に転校だなんて何かしたわけ?」

背後からの声は明快で快活だけれども抑揚が少ない。

「別に。家庭の事情ですよ」

何となく手が彷徨って自らの髪の毛を掴む。

「ずいぶんいかした格好してるね、その髪脱色してんの?」

軽く掴んだ頭を掻きながら溜息を吐いた。

「誰が好き好んで白髪にするんですか。そんなわけないでしょう、これは地毛です」

髪の毛を掴んでいた手をひらひらと降って見せる。

「その目の傷、何?」

そう問うとアレンは目線だけを此方に向けた。その表情は口角が上がり、なんとも言えない不思議な表情で、怒るかなと思っていた男は意外な印象受けた。

「貴方には関係ないと思いますが」

彼の銀灰の眼差しが碧の隻眼と交わった。その目の傷のことは聞いて知っていたと言うのに男はなんだか気後れしてしまいそうな感覚を覚える。

「じゃあさ、前の学校でどうだったの?部活とかやってた?」

向けていた目線が斜め上に外れ少し考えるような表情をして見せる。アレンは体までそっと振り返った。

「俺はラビ。生徒会長なんさ」

男はにんまりと人のいい笑みを向けアレンの肩を勢いよく叩いて見せた。





back/long
全員接触!何考えているのか分からないアレンを書きたいなと思いました。ラビが生徒会長と言うのは最初から決めていたのですがどのタイミングで明かすのか結構難しかった。生徒会物って分からなかった人も多いはず。実はアレンを攻めにするか受けにするかまだ決まってないんですよ。それによって今後の展開が大きく変わるでしょうね。





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