DRAMATIC IRONY_02 | ナノ
02
しとしとと、何週間ぶりの事であろうか。空には雨が降っていた。
本来、湿気を孕んだ空気はあまり好きなわけではない。けれど、ここのところ暑い日が続いていたためかもしれない。それに対して不思議と悪い気はしなかった。
「済みません、ちょっといいですか?」
テノールボイスが耳に届く。校舎の1階から空を眺めていた少女は後ろを振り返る。
「なにかしら」
そこにいたのは白髪の少年だった。私服であり、目立つ容姿をしているがその顔に見覚えはない。
「職員室に行きたんですが場所がわからなくって」
怪訝そうな彼女の警戒心を解くために物腰柔らかに少年ははにかみながら答えた。その言葉に少女は心当たりを思い出す。
「もしかして、貴方が転入生のアレンくん?」
少女は兄から今日転入生が来ることを聞いていたのだ。
「ええそうですよ」
目の前の少女が名前を聞いているとは思っていなかったアレンは彼女の言葉に軽く驚いた。
「兄から名前は聞いているわ。私も実は今から職員室に向かうところなの。よかったら案内するわよ?」
そう彼女が申し出ると少年は明るい顔をして礼儀正しくお礼を言った。
「私はリナリーって言うの。よろしくね、アレンくん」
「よろしくお願いします」
二人は並んで職員室に向かっていった。
カリカリカリカリ。
周りにはまだ筆記音が響く。
カチ、カチ、カチ、カチ。
規則正しい筈の秒針の動きはやけに遅く感じた。
眼帯の少年はぼんやりと時計を見つめる。
「3、2、1」
心のカウントとともに鐘の音を真似た電子音が響き渡る。静寂とした教室は一気に活気を取り戻した。答案用紙が回収されていく。
眼帯の少年もそれに安心し背伸びをする。
「は〜。長かったさー」
先程までの苦行に対しての解放感を噛みしめ、目の前の席に座る友人に語る。
「ユウはどうだった?」
軽く話しかける眼帯の少年に、長髪の少年は露骨に嫌悪感を露わにしドスの効いた口調で反論した。
「名前で呼ぶんじゃねぇって言ってんだろうが。馬鹿兎」
現在この教室では模試が行われてる。進学したい者たちにとってそれは大切な行事だ。それはラビも理解していた。しかし、開始10分ですっかり答案用紙を埋めてしまった彼にとってその時間は退屈以外の何物でもなかった。
「そうそう、知ってか?何か一年に転入生が来るんだって」
眉間に皺を寄せた友人を物ともせずに相変わらずの陽気な口調で思い出したように話題を変えた。
「1年じゃ全く関係ないだろうが」
「そりゃあそうだけど転入生自体少ないしこの時期にわざわざ来るなんて気になるじゃん。ユウは気にならないさ?」
大して興味もなさそうな神田に対してその反応に不満らしいラビが質問する。
「全く気にならねぇな」
それでも神田は冷たく言い捨てた。
神田が上手く書けない今日この頃。