DRAMATIC IRONY_01 | ナノ
01





 
熱線に晒されたアスファルトはまるでフライパンのように地上の温度を数度上げている。強い日差しが少年たちを苛む季節、その学び舎を去ろうとする少年がひとり。

「おーい、少年」

 黒髪の端正な顔立ちをした男は目の前に白い少年を見つけるとその足を止め大きく呼び止めた。
 
「何ですか」

 振り返る少年は髪が白く、左側の額から頬にかけて目の近くにまるで模様のような大きな傷がある。暑い日なのにシャツは長袖、両の手には白い手袋が嵌められている。

 「何ですか、じゃねぇよ。もう行くのか?」

 きょとんとしいている少年に男は確認するように問う。こう見えて目の前の男、ティキ・ミックはこの白い少年の担任だった。

 「ええ。理事長たちにも挨拶はもう済ませましたから」

 ティキの言葉に反応する少年の顔は暗い。やはり寂しいのだな、とティキは推測する。

 「まあまた遊びに来いよ。ロードが待ってるぜ」

 そう言ってやる。すると少年は、「そうですね」と頷くように返した。ティキは慰めるように微笑んだ。

 ここ、ノアズ学園はスポーツや芸術に秀いた者たちが揃う私立の中高一貫校だ。学力よりも一芸重視のため若干素行の悪い生徒も多いがいろいろな方面で活躍している者たちが集っている。当然ながら学費は高い。
 そんな学校に白い少年、アレンが所属しているのはここの理事長である千年伯爵のお陰だった。けれどもそれも今日まで。この学校をアレンは今日で去る。

「それでは僕はもう行きます」

 ティキを一瞥しそう挨拶するとアレンは新幹線の駅へ向かうために再び歩を進めた。すると、

 「アッレーン!!!」

 素早い速度で走ってきたショートヘアーの少女は勢いよくアレンに抱き着いた。

 「ロード!!」

 抱き着かれたアレンは心から驚いたような表情をした。

 「また授業を抜け出して来たんですか」

 困ったように嘆息する。

 ロードは中等部の生徒であるがしょっちゅう高等部の敷地にやってくる。その目的は専らアレンに会うため。本来中等部の生徒が高等部の敷地に入ることは禁止されている。しかし彼女は校長、シェリル・キャメロットの娘であるためか理事長に溺愛されているからか、恐らくその両方であろうが見つかってもさほど怒られはしない。それでも中等部は現在授業中の筈で、そんな時間にここにいるのは問題でない筈はない。

 「何ロード、少年に会うために授業抜け出して来たわけ?担任のルル=ベルが泣いてるぞ」

 ティキもそう思ったらしい。呆れ顔である。

「ティッキーうっさいしぃ」

 ティキの言葉に彼女は怏怏と返す。

 ティキは校長の弟でロードにとって叔父にあたる。だからその信頼は厚いのか教員だというのに専らティッキーと渾名で呼んでいる。ただしティキ本人は「オレが先生だってこと忘れてね?」と不満そうではあるが。

「だって今日でアレンと会えなくなるんでしょー?」

 苦笑いしながらそれを眺めていたアレンにロードは真摯な視線を向けた。そこにはいつもの飄々とした様子はない。このような彼女の様子が珍しくて、アレンは顔には出さない程度にたじろいだ。

「大丈夫だよ。たまにロードや理事長たちに会いに来るから」

 アレンにとって、今回の転校の経緯を知ってなお今迄と変わらない目線を向けてくれている彼女は信頼できる存在である。彼女の気持ちを察し優しく諭す。それでもロードは不満だった。

「だってぇ別にアレンがいなくなることないじゃん。それにもともとあれは……」

 何かを言いかけたロードの言葉を遮るように、彼女の唇にそっとアレンは自らの人差し指を乗せた。

「あれは僕が悪いんだよ。それにもう決めたことだから。たった半年だったけど、ロードたちと過ごした時間はたのしかったっよ」

 穏やかに微笑み、ロードの頭を優しくなでた。ロードもそれ以上は言えなくなり続く言葉を呑み込んだ。



「え、何?ロードって少年とそーいう関係だったの?」

 ティキは下世話にも口を挟む。ムードから何か勘違いしたらしい。

 「じゃあそろそろ新幹線の時間なんで僕は行きます」

 そんなティキの言葉を聞き流したアレンは、最後の挨拶をすると、微笑みながら手を振ってこの校舎を去っていった。

「ありがとう」

 誰にも聞こえない言葉で最後にそう呟やいて。






back/long
絶対始めはノア側からだ!!と意気込んで執筆。



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