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「では、症状をお聞きしましょうか」

病院の診察室。休診中のはずの一室では、白衣を着たでっぷりと太った中年の男と、色の抜けた髪の毛に派手な服を着た少年が向かい合って座っている。

「あの、最近、普通に自分でしても、イけないんすよ」
「自分で、何をですか?」
「はっ? わ、わかんだろ」
「ここは病院ですから、きちんと病状を説明して下さい。私は正しく症状を理解するために聞いているだけですから、恥ずかしがらずに」

男は淡々と、しかしにやにやと卑しい笑みを顔にこびりつけながら少年に言う。彼は言葉を聞き終わると、どこか納得のいかない表情ながらも話し出す。

「だから、自分で普通にオナニー、しても、イけなくって、困ってる、つってんだよ」
「なるほど。それはいつ頃から?」
「先月の、半ばごろだから一ヶ月くらい」
「それから一回もイってないの?」

男の質問に、少年は息を詰まらせる。嘘をつくということには思い至らないようで、薄く赤面しながら話を続ける。

「いっこ、だけ、イける方法あんだけど、」
「それなら問題ないじゃないですか」
「それ、が、そうだったらこんなとこ来てねーよ」

思い出しただけでも嫌悪感があるのか、少年は顔を歪める。男は素知らぬ顔で続きを促す。

「どういった方法ですか」
「っ、言ったら、治んのかよ」
「治す努力はしますよ」

少年は覚悟を決めたのか、渋々と話し出す。
平静を装っているものの恥ずかしさに震える声に、男はひっそりと笑みを漏らす。

「歯ブラシ、使って、その、中、弄って……」
「中というのは?」
「だ、から、ケツん中、だって」
「そうですか、続けてください」
「で、なんか知らないやつとキスしてんの考えて、中ぐちゃぐちゃにしなきゃ、イけなくって」

特殊な自慰の方法を説明するというのは想像以上に羞恥を煽るらしく、少年は真っ赤になって視線を彷徨わせている。男が安心させるように彼の身体に触れると、ピクリと肩が跳ねた。

「なるほど、わかりました。とりあえず触診をしますから、服を脱いで下着だけになってください」

少年は立ち上がって服を脱ぎ、脱いだそれを籠に投げ入れる。もう一度椅子に座り直すと、ずい、と男が椅子を寄せて近づき、素肌に触れながら話を再開する。

「その一ヶ月で、何度くらいオナニーしたのかな」
「5回、だけ」
「いつしたの?我慢できなかったの?」
「ずっと我慢してたけど、ムラムラするしイけねーし、そんで、ちょこちょこしてた」
「気持ちよかった?」
「……、わるく、は、ねーけど」

男は少年の答えを満足げに聞きながら、脇腹を撫でたり胸板をさすったりする。

「痛かったり感じたりしたら教えてくださいね」
「わかっ、た」

男の指は段々と動かす範囲を狭め、胸の突起に近づく。少し息を荒げた少年は、黙ってそれを受け入れる。

「あっ、」
「どうされましたか?」
「ん、そこ」

両方の乳首を摘ままれくにくにと揉まれた少年が、椅子の上で身悶えながら男に伝える。

「こっちと、どちらが気持ちいいですか」

爪先で押しつぶしたり引っ掻いたりしながら男が言うと、少年は薄く涙の膜を張った目で男を見上げる。

「どっち、も、気持ちいい」

快楽にとろけそうな顔で、下着にはもう染みができている。

「後ろも見ておきますから、下着も脱いでそこのベッドに移動しましょうか」
「ん、はい」

よたよたと立ち上がった少年は、病院特有の硬いベッドに身を任せる。

「診察しやすいように、こちらに向けて四つん這いになってください」

男の声が下卑たものになっても少年は何も疑わず指示に従う。これが医療行為であって自分は治療に来ているのだ、と、思い込まされてでもいるように。

「少しひんやりしますよ」

ちゅぶ、と、露わにされた秘所にローションがかけられる。するりと飲み込まれた指に、少年は息を詰まらせる。

「前立腺に当たったら教えてくださいね」
「はい、ぁ、は、もっと、奥、」

じゅぷじゅぷと場に似つかわしくない濡れた音が響く。

「んんっ、ぁ!そこ、ふ、ぁ、!」

少年の甘い声に、男は気を良くして指を動かす。
しばらく律動を続けると、少年が限界を訴える。

「も、だめ、イきた、のに」
「じゃあ、ここはお注射でもしておこうか」

男の声はもう耳に入っていないらしい。指の抜けたそこをヒクつかせながら、少年は物足りなそうな声をあげる。

「ほら、お注射しますから、仰向けになって足広げて」
「ん、っれで、イけんの?」
「イけるから、早く」

少年は無意識に誘うようなポーズを取らされ、男を受け入れる。向かい合うようにずっぽりと奥まで飲み込むと、男が指を鳴らす。

「じゃあ、理性だけは元に戻してあげようかな」

パチン。弾けた音と同時に、とろけていた少年の目に光が戻る。

「っふ、ぁ、んだよ、これ!? つか、てめ、あん時のキモい、やつ」
「従順な子もカワイイけど、やっぱ生意気な子とするほうが楽しいんだよなぁ」

男は建前を捨ててずぽずぽと腰を動かす。締め付けを楽しむように深く差し込むと、少年の足が強請るように腰に絡みつく。

「なっ、で、俺、こんなの、やっだ、のに」
「無意識にしちゃうなんて淫乱だねぇ」
「てめ、が、なんかしたんだろ!」

自分から腰を振り締め付けて男のモノを味わっているという事実が信じられず、少年は目の前にある男の顔を睨む。

「そんなカワイイ顔されちゃうともっと虐めたくなるなぁ」

少年の腕が男の首に回される。

「や、だ、やめ……」
「君がしてるんでしょう?」

近づく距離に、勝手に動く身体。自分から押し付けた唇はぶよぶよと気色悪い筈なのに、夢中で貪ってしまう。

(なんなんだよ!また、意味わかんねーし、こんなやつ、と、最悪だろ……)

中で膨らんだモノがドクドクと脈打つのを感じて、少年は内心で必死に拒絶する。
そのはずなのに、身体はまるで愛し合うように腰を揺すりそれを促しながら、舌を絡めあっている。

「じゃあ、一緒にイこうか」

頭で考えたこととと身体のギャップと、男の気持ち悪い提案。それに凄まじい快楽が加わって、ついに少年の理性は壊れる。

「ん、も、いいから! きもちく、して! っれも、イきた、から、なんでも、いい」

少年はとろけた顔で腰を振りながらそう言うと、一層強く中を締め付ける。中にどろりと広がる生ぬるい感触に釣られるように久々の射精を迎え、少年は激しく息を乱した。



「おまえ、なんなの」

嫌悪感を剥き出しにした顔で男のモノを舐めながら、少年は尋ねる。

「超能力、みたいな感じかな」

男は染められて痛んだ少年の髪の毛をいじりながら、こともなげに答える。

「きめー。って言いてーけど、マジっぽいな」

ちゅ、と中に残ったものまで吸い出すように口を窄め、ぺろぺろと子供のように舐める。

「超能力って、なんでもできんの?」
「さあ、できなかったことがないからわからないけど」
「とりあえずこないだの治せよ」

一通り終わらせ、少年は口を離す。男はパチンと指を鳴らして、少年に言う。

「まあこんなことしなくてもできるんだけどね。これで君は自由の身だよ。もちろん、オナニーもし放題だ」

突然に自由を言い渡された少年は、とりあえず目の前の男をぶん殴ろうと拳を固める。何かしらの能力で当たらないだろうとどこか思っていたそれは頬に綺麗にクリーンヒットし、男は椅子ごと倒れた。

「は? 何やってんだよ」
「それ、こっちのセリフ、なんだけど」

痛い、と文句を言いながら立ち上がる男に、少年は妙な気持ちを覚える。

「普通、よけねー?」
「僕みたいなのが、君の攻撃よけれるわけないでしょ」

腫れた頬を押さえる男に憎まれ口を叩きながらも、少年はそわそわとどこか忙しない。

「んだよ、どんくせーな」
「ちなみに、君は今僕に罪悪感を覚えるとそれを恋愛感情と思うようになってる」
「は? なんだよそれ」
「君は好きな子にもツンツンするタイプなんだね」
「知らねーし!早く治せよ!つか全然悪いとか思ってねーし」
「次に会ったときにね。それと、ここ明日から診察あるみたいだから掃除よろしく」

ひらりと手を振った男はそのまま出て行き、少年はひとり生々しい匂いの消えない診察室に取り残される。
突然に言い渡された処理しきれない情報と、勘違いだとわかっていてもとめられない妙な感情に、彼は深いため息をついた。