suck
最近、密かなマイブームがある。
「じゅーんた!」
ぐっと爪先で背伸びをして、キッチンの冷蔵庫を覗いている彼の細い背中にぎゅっと抱き付く。そうすると丁度純太の頸の辺りに鼻が届いて、ふわふわの柔らかいパーマに鼻先を擽られる。
これが私の、最近のちょっとしたマイブーム。
「おわっ…!オイオイ、名前ーびっくりしただろー」
なんて言いつつ困ったように眉を下げて笑う純太は、私の突然の行動に怒る事なく体を少し捻って頭を撫でてくれる。きっと普通なら怒られてしまいそうなこの行動は、怒らない純太の優しさに甘えてここのところ毎日…数えてないけど、最低でも3回はしている。
最初は純太の髪ってふわふわで顔を埋めたら気持ち良さそうだなっていう興味本位だった。その好奇心に抗えなくて何気なく後ろから抱き付いて、顔を埋めてみたらすごく気持ちよかった。以来、私は事あるごとに純太に後ろから抱き付いては彼のパーマに顔をくすぐらせている。
本人はこの天然パーマを気にしているけど、シャンプーやドライヤーのかけ方にまでこだわった手入れの行き届いているこの髪の手触りは最高だ。ふわふわで柔らかくて、なのに絡みもなくサラサラで気持ちいい。
その感触だけじゃなくて、鼻腔に入ってくる香りも好きだ。シャンプーの香りはもちろん、純太自身のにおいも大好き。彼にべったりと抱き付いているおかげで鼓動も体温も伝わってくるからなんだか感覚全てが純太で埋め尽くされているみたいですごく安心するし、幸せな気持ちになる。
へへ、と笑って、スリスリと鼻先を擦り付けるとまた鼻腔に流れ込んでくる彼のにおいとふわふわの感触。それを堪能しているのがバレてしまったのか、少し困ったように名前を呼ばれた。
「まだ風呂入ってねぇんだぞー」
「そんなの気にしてたらこんな事しないよ」
「オレがハズイんだけど」
恥ずかしそうにしているけど、私の腕を振り解いたりやめろって言わずに私の好きにさせてくれるから純太は優しい。その優しさに甘えて、今日も私は純太を摂取出来る。
「最近これ毎日やってるな、オレの天パそんなに気持ちいい?」
「うん、ふわふわで気持ちいいよ。純太の天パ最高」
「まぁ気に入ってくれてんなら良いけど、天パが最高ってなんっか複雑だわー…」
彼との距離をもっと縮めるように足の爪先に力を入れて体を持ち上げると、ふわふわの襟足に更に鼻先が沈む。ああ、やっぱり気持ちがいいし大好きな香りが鼻先から流れ込んでくる。だから純太の天パは、というか純太だから最高なんだ。
側から見たらきっと今の私は変態以外の何者でもないだろう。けどこんな姿純太にしか見せられないし、彼だからこんな事をする。こんな変態行為をしているのに引いたりしない彼に感謝しなくちゃ。
ひとしきり堪能していると、私の腕の中にいた純太がその腕をやんわりと解いて、突然くるりと向きを変えてきた。結構強めに腕を回していたつもりだったけど、こういうところは細くてもちゃんと男の人だなってふとした時に思い知らされる。
「さて、もうそろそろいいだろ?」
さすがにやりすぎたかな、引かれたかな?と思ったのも束の間、今度は純太が私を抱き締めてきた。しかもお返しだと言うみたいに肩口に顔を埋められて、鼻で深く息を吸う音が耳元で聞こえる。
どうやらにおいを嗅がれている、と理解した途端にじわじわと顔に熱が集まってくるのを感じる。
「ちょ…純太っ」
私も純太と同じく今日はまだお風呂に入ってない。抱き締めてもらえているのは嬉しいけど、においを嗅がれるのはさすがにじわじわと恥ずかしくなってくる。私もお風呂まだなのに、の意を込めてぽんぽんと背中を叩いてみるけど解放してもらえそうにない。
「あーこれめっちゃ最高だな。大好きな彼女のにおいってすげー落ち着くわ」
うっとりとした声で言いながら純太は私の髪を撫でて、また肩口で顔を捩らせた。言っていることはきっと本心なのだろうけど、まるでどんどん体温を上げる私の反応を楽しんでいるようにも感じる。
「名前髪すげーサラサラだよな、しかもいいにおいするし。一生撫でてられる気がするよ」
「純太、私もお風呂まだ…っ」
さすがに行動だけじゃ伝わらなかったかと言葉にしてみるけど、純太は離してくれそうにない。撫でてもらえるのは嬉しいし私も落ち着くけど、においを深く嗅がれるのはそろそろ本格的に恥ずかしい。
純太が「ハズイ」って言ってた気持ちがよーくわかった。
「んじゃあ後で入ろっか。一緒に」
「ちが…そういう事じゃなくって…!」
きっと私が何を言いたいのか、ちゃんとわかっている上でそんなことを言ってくるから純太はずるい。それを裏付けるかのように彼の声は楽しそうなのだから。きっと「離して」とはっきり言っても彼は離してはくれないだろう。
それに、さっき私は散々堪能させてもらっていたのだからそんなこと言いにくい。
「もーちょっとだけ、な?ここ最近のお返しだと思ってさ」
そう言って純太はまた顔を摺り寄せて、私の腰に回している腕に力を込めてきた。
お返しだと思って、だなんて言われたら何も言えなくなってしまうからやっぱり純太はずるい。
きっとまだ、しばらくは解放してもらえそうにないなあと思いつつも彼の背に腕を回した。
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