貴方に見ていて欲しいのに



(新隼←泉田を匂わせる描写があります)





新開さんの熱い眼差しを一身に受ける彼女の事が好きになれなかった。

いつも自転車部の練習が終わるまで校内で待って、時間になれば部室までやってきて新開さんの手を取る彼女。新開さんが彼女を見つめる眼差しは、練習中ボクを見ていてくれるそれとはまるで違う、見ているこちらが恥ずかしくなってしまうような熱い視線。
新開さんが彼女をそんな目で見つめるのも当然だとわかっている。何故なら二人は恋人同士なのだから。

頭ではそう理解しているのに、そんな二人の熱い視線を送り合う光景見たくない、新開さんの口から紡がれる彼女の名と声を聞きたくないとすらボクは思ってしまっていたのだ。本当にボクはどうかしている。

新開さんに抱いているのは尊敬の気持ちであって、決して恋心などと浮ついた感情ではないはずなのに。第一気持ち悪いじゃないか、男から寄せられる恋心だなんて。いつも優しく寛大で、おおらかな心をしている新開さんも流石にそれは引くだろう。

…ならば何故、ボクは新開さんの恋人である彼女にこんな醜い感情を抱いてしまうのだろう。

ここまで苦楽を共にしてきた己自身、もといアンディとフランクに訊ねてみるが彼らは何も答えてはくれない。否、答えられないのであろう。
ただ理解できるのは、無性に彼女が気に入らないという事だけ。

手を繋いで並んで歩く二人の姿を見送るボクは、一体どんな表情をしているのだろうか。


「ねぇ隼人、ファミレス寄っていかない?」
「ああ、いいぜ。おめさんとなら何処でも行くよ。腹も減ってるしな」


──おめさんとなら何処でも行く。

この言葉を耳にしたのは何度目だろうか。
ボクは来年からあなととは一緒に走る事も、アドバイスをもらう事も、成長を見守って貰う事すら出来ないというのに。彼女はこれから先もきっと新開さん共に居続けるのだろう。そう考えると胸が抉られるような感情を覚えた。


「…ボクは、貴女が羨ましい」


そうポツリと口から出てしまった言葉は、きっと誰の耳にも届いていないだろう。





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