そのままでいいんだよ



いつもは最低限しかしないお化粧はいつもより濃いめのナチュラルメイク。普段は前髪にしか使わないヘアアイロンで作ったふんわりカールヘア。それから制服のスカートよりも短いタイトなミニスカート。そして仕上げに美脚に見せてくれる高いヒールのショートブーツ。

駅前のビルのショーウィンドウのガラスに映る私は、私じゃないみたいだ。


今日は部活で忙しくてなかなか2人だけの時間を取れなかった純太との初めてと言っても過言ではないデート。前々からインターハイが終わって引退したら出かけようっていう彼との約束がようやく叶う日だった。
今日がとにかく楽しみで、今日の為に女子高生向けのファッション誌を読み込んで“はじめてのデートで彼ウケするコーデ”なんていうのを徹底的に調べた。ファッション誌に載っていたお店の服を上から下まで今日の為に買って、今日の為に買った流行りのコスメを使って、ネットで一生懸命調べた彼ウケのいいメイクをして。

そうして時間をかけて作り上げた私は、なんだか別人みたいだった。

寒がりの私はこんな短いスカート本当は寒くて履きたくないし、いつもスニーカーを履いているからヒールのある靴なんて痛くてたまらない。髪だっていつもは下ろしているか一つに束ねているかだけ。お化粧もすごい時間をかけた割に私の顔似合ってない気がする。
ちっとも私らしくないけど…純太が可愛いって言ってくれるなら、それでいいや。

そう、思っていたんだけど。

「おー…なんか、いつもと雰囲気大分違うな?」

待ち合わせ場所に来た純太の第一声はそれだった。似合ってないかな?そう恐る恐る聞けば「似合ってなくはねぇよ」とその言葉の奥にまた別の意味がありそうな事を言うだけ。可愛くないのかな…?変ってことはないはず!だって純太を待ってる間、3人くらいの男の人に声かけられたんだから。いつもは駅前に1人でいても誰にも声をかけられないのに。
そんな事を考えながら、慣れないヒールのせいでよたよたしながら純太の後ろを歩いていると、登りの階段に差し掛かっていた。

「お手をどうぞ?お姫様?」
「は…?なに言ってんの…?」

差し出された手と純太の顔を交互に見ながら、あまりの似合わなさに思わず真顔で言ってしまった。やめなよ、だってあんたがキラキラした王子様キャラだなんて似合わない。私が好きな純太はもっと平凡でどこにでもいるような男子校生だけど、優しくて本当は誰よりも頑張り屋で、キラキラとはかけ離れたちょっと泥臭い感じする純太なんだから。
思わず「似合わないよ」って言えば、純太は何故かぷっと吹き出した。

「慣れない事してんのは、お互い様だな?」
「え?」
「あー…気を悪くしたらごめんな?今のその格好も可愛いけどさ…オレは普段の格好の方がお前らしくて好きだわ」

目の前に差し出されていた手がすっと降ろされて、私の手を優しく取る。

「けどオレの為にそんな格好してくれたんだろ?お前のそういう健気なとこ、やっぱオレ大好きだわ」

くしゃっと笑いながらさらっとそんな事を言ってしまう純太はズルい。似合ってないけど、私を傷付けないようにって気の利いた言葉をくれるところ。似合わない格好をしてしまった結果だけじゃなくて、私が頑張ったとこまで好きだと言ってくれるところ。それにしってるんだよ私、さっきからヒールのせいで歩くのが遅い私に合わせてゆっくり歩いて気遣ってくれてること。
それから階段だって、さりげなく私に視線を向けながら手を引いてゆっくり一段ずつ登ってくれる。

「…純太のそういうところ、大好き」
「ん?なんか言ったか?」
「んーん、何でもない」

おとぎばなしに出てくるようなキラキラした王子様とは程遠いけど、だからこそ私は純太が大好き。

次のデートは今度こそ、彼に心から可愛いと言ってもらえるよう私らしいお洒落をしようと思う。





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