ケンカする程何とやら



私は鏑木一差という男が嫌いだ、大嫌いだ。
わがままなところ、うるさいところ、ガキくさいところ、バカなところ……とにかくあいつの嫌いなところを挙げたらキリがない。
あの子供っぽさがなんかいいよね、なんて言ってる子もいるけど正直理解できない。大丈夫?頭ぶつけたの?と思っちゃう。だって高校生にもなって「女子なんか!」とか言うし、掃除の時間だって箒を振り回して遊んでるし。見た目は高校生だけど頭脳は小学生だ。いつも一緒にいる段竹くんを見習って欲しい、彼はとても私とも鏑木とも同い年とは思えないくらいに落ち着いているし優しい。近くにそんな人間の出来た親友がいるっていうのにあの馬鹿者は恥ずかしくならないんだろうか、私だったら恥ずかしすぎて消えてしまいたいなって思う。ああ恥ずかしくならないんじゃなくてなれないのか、バカだからきっとわからないんだ。それなら仕方ない。

何故私はこんなやつと同じクラスになってしまったんだろう。お陰で青春を夢見ていた高校生活は毎日ストレスフルだ。


「オイ苗字!!またこのオレ様にバカって言ったな!?」
「バカにバカって言って何が悪いの、バカらぎ」
「ハア!?バカらぎって誰だ!オレは天才鏑木一差様だ!!それにバカって言った方がバカなんだぞ!!知らねーのか、バカだなー苗字ー」
「そういう所がいつまでもガキでバカだっつってんのこのバカらぎ!」


私と鏑木の口喧嘩は今に始まった事じゃない。毎日毎日繰り返しているうちに、気が付けばこのクラスの名物となってしまったらしい。大変不本意で屈辱的だ。大体私は喧嘩したくてアイツと喧嘩してる訳じゃない、いつも大抵あのバカの方から吹っかけてくるんだ。
去年の夏は自転車のインターハイに一年ながら出場して活躍したと聞いた時だって、素直にすごいじゃん!と思った。新学期が始まってから素直にそれを伝えてやろうと思ってたのに…やっぱりつっかかってきた鏑木とケンカをして伝える事なく今日まで来てしまった。まあもう伝えてやる気なんてないけど。


そんなまだまだガキンチョな鏑木も、もうすぐ誕生日を迎えて数字だけは一つ大人になるらしい。誕生日になんとかを親に買ってもらうんだって教室で段竹くんにでっかい声で主張していた。なんとかは多分自転車の用品だろう、専門用語は私にはちっともわからないけど、自転車の事を話す鏑木はキラキラと純粋な目をしていて楽しそうで、それこそ小さな子供みたいだ。


(……自転車乗ってる時のアイツは、普通にカッコいいんだよなぁ……)


……私は一体何を考えているんだ、アイツがカッコイイだなんてありえない!バカなガキじゃないかアイツは!!ありえないありえない、私が鏑木をかっこいいって思うなんて!!

よし、決めた。アイツの誕生日にはアイツが嫌がりそうな物を贈ってやろう、精々扱いに困るがいい!日頃散々私に絡んでくる仕返しだ!ばーかばーか!



ーーと、思っていたのに。



私が手に取ったのは明らかに貰って困るような物なんかじゃなくて、オレンジ色のタオルだった。それも吸水性に優れたスポーツにはもってこいのやつ。
何を贈りつけて嫌がらせてやろうかと考えていたはずなのに鏑木が白い自転車に跨って、汗だくになりながら一生懸命走っている姿を無意識に思い浮かべてしまって気付けばスポーツ用品店に足が向いていた。
アイツの事なんて1ミクロンも好きじゃないのに、何で普通に役に立ちそうな物を買ってるんだ、あーもう私のバカ!!
もうこうなったら鏑木の顔目掛けて投げ付けてやろう、それだ、そうしよう!いつものように鏑木が喧嘩を売ってきたら思いっきりこれを投げ付けてやる!そしてこう言ってやるんだ、「体は大きくなっても頭はガキだね!」って!


「なんだお前、いつもピーピーうるさいのにヤケに静かだな?腹でも壊したか?」
「……うっさい、バカらぎ」
「やっぱり!変だ!さては森で変なキノコでも食ったな!?苗字はバカだからなーきのこの拾い食いはしちゃダメだろー」
「う、うるさいなぁ!そんなんしてないし!バカ!!」


……綺麗にラッピングされたタオルを投げつけてやる、つもりだった。

なのにいざとなったら恥ずかしくなってしまって、タイミングはいくらでもあったのに鏑木には見えないように手に持ったまま何も出来ずにいた。心臓はバクバクするし、少し手汗もかいてるし顔も熱いし…なんなんだ、これじゃまるで私、鏑木の事がーー


「ははーん、さてはお前アレだろ、オレ様の事がーー」
「っ、違う!そんなんじゃないし!!絶対違うし!!バカー!!」


私の頭の中を読んだのかと思うほど絶妙なタイミングでニヤニヤしながら何かを言いかける鏑木の顔面目掛けて、思いっきり手にしていたラッピングを投げつけて、堪らずにヤツの目の前から逃げ出した。「いってぇ!」とか叫んでいた気がするけど知らない!悪いのは鏑木だ!!しかもあんな女子の気持ちなんかミジンコ程にもわからないような奴に「オレの事が好きなのか」って思われるなんて!!


「あんなバカ、あんなバカなんか……好きなんかじゃないんだからーー!!」







「なんなんだよ、アイツ…!!」


叫びながら教室を飛び出して行ったアイツの後ろ姿を眺めながら、何かを投げつけられた額を摩る。青八木さんに耳を引っ張られた時の比ではないが地味に痛む。ったくどんだけバカ力なんだ、アイツ。しかもオレの話を遮るなんて失礼すぎる!親に人の話は最後まで聞けって習わなかったのか?


「一差、これ」


アイツが投げて床に落ちたらしき物を拾ったいつの間にか側にいた段竹が手渡してくる。アイツ何投げてきたんだと思ったら…なんだこれ、オレンジ色のリボンの付いた袋だ。


「なんだこれ」
「誕生日プレゼントだろう、一差への」


よかったな、なんて段竹は口の端を上げているが良かったのか…?いつもオレ様に喧嘩を売ってくるアイツの事だ、きっと嫌がらせに決まってる!けど…なんだ、この鼓動が逸るような気持ちは……。
とりあえず開けてみろよと段竹に言われるまま、オレンジのリボンを解いた。どーせアイツの事だ、きっと中からなんか飛び出してくんだろ!ハハッ、残念だったな!この鏑木一差はそんな小学生みたいな嫌がらせじゃ痛くも痒くもねーぜ!


「……なんだこれ、タオルか?」


何かびっくりさせる系の物出てきたら、次にアイツと顔を合わせた時にガキだなって揶揄ってやろうと思ったがラッピングから出てきたのはオレンジ色のタオルだった。しかも走った後に顔をバフってやったら気持ち良さそうなやつだ。


「良かったじゃないか。それなかなかいいタオルだろ」
「ま、まぁ、子供っぽいアイツにしては悪くないんじゃねーか?し、仕方ねーから使ってやるよ」
「素直じゃないな、本当は嬉しいんだろ。苗字さんからのプレゼント」
「何を言う段竹!!う、嬉しい訳あるか!!女子からだぞ!恥ずかしいだけだ!」


そうだ、まだ動悸がして顔が熱いのは恥ずかしいからだ!アイツからプレゼントなんかもらって嬉しいなんて…!い、いやまぁ…ほんのちょびっとだけ…ああクソ!!マジで何なんだアイツは!調子が狂う!


「ところで一差、さっき苗字さんに何を言おうとしたんだ?」
「ああ、あれか、今日誕生日のオレ様が羨ましいんだろって言おうとしたんだ。そしたらこれ投げてきやがって!そんなに誕生日が羨ましかったのかーマジでガキだよなー苗字は」
「……それはお互い様だぞ、一差」






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