変わり者同士、似た者同士



彼への第一印象は、ズバリ「変なヤツ」、それに限る。


高校の入学式初日の通学路、鼻声を歌いながら細い自転車に乗った緑色の髪をした男は、なんとも気味の悪い笑顔を浮かべながら私を追い抜いて行った。


「…何あの変なヤツ」


あっという間に見えなくなった緑色をぽかんと見つめながら、思わずそう呟いたことはまだ記憶に新しい。
その男の名前が巻島裕介だと知ったのは、後に同じクラスで隣の席になってからだった。その時私の口から出たのはよろしくね、とか挨拶の類ではなく「あの時の変なヤツ!」だった事もよく覚えている。

変なヤツだと思った、だけど不思議と興味を惹かれた。
隣の席なのをいいことに、私はしょっちゅう巻島に話しかけた。なんで頭そんな色なの、なんで語尾がショなの?、ノート斜めにして書きにくくないの?…などなど、とにかく気になった事は色々尋ねた。だけど彼は困った顔を浮かべるばかりで、ちゃんと答えてくれる物はあまりなかった。
そんな数少ない中で、一番印象に深いのは自転車に関する質問をした時だった。


「自転車は自由なんだ」


彼が乗っているあの細い自転車は、ロードバイクというのだと教えてくれた。そのロードバイクの事を語る巻島は本当に楽しそうだった。いつも笑顔が下手な巻島だけど、あの時の自然な笑顔は今でも脳裏に焼き付いている。

私が巻島裕介という男に恋をしたのも、その時だった。




「ホント、変なヤツッショ」
「裕介に言われたくないよ」


クハッ、と高校時代から変わらない笑い声が隣から聞こえた。
出会った頃は変な笑い方だなあと思っていたけど、その印象は今やすっかり一変して大好きな笑い方になってしまった。


「高校の時やたら話しかけてくる変なヤツだと思ったら…こんなとこまで着いて来ちまうなんて」
「変なヤツですからね、だから変な裕介に惹かれたのかも」


それは裕介も、でしょう?
彼の目を見上げれば、かなわないと言わんばかりに裕介は元々下がった眉を更に下げて薄く笑って、繋いだ手に力を込めてきた。それと殆ど同時に響くイギリス行きの便の搭乗アナウンス。


「そろそろ時間ショ。…行くか」
「そうだね、変な旦那さん」


今私の隣にいる第一印象が変なヤツだったその男は、大人になった今では私の人生の伴侶だ。
相変わらず笑顔は気味が悪いし、髪は緑だし、紙に何か書く時は斜めにするし、語尾はショだし…高校時代からまるで変わらないけれど、私はそんな人とはちょっと変わった裕介をかっこいいと思うし、大好き。
そんな彼と一緒なら、これから始める海外生活もきっと退屈しない楽しい物になるだろう。


「離れないからね、これからも」
「……こっちこそ、離してやる気なんかねぇッショ。変な嫁さん」


私達は同時に笑い合って、これからの新しい人生の為の第一歩を踏み出した。





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