ズルいよ、神様



「笑ったとこ、見たいな」


そう言った所で目の前にいる彼は笑ってくれないのを知っている。ほらね、少し困った顔になった。
困った顔も綺麗だなんて神様は不公平だ。彼はほんの数ヶ月前までまるでこけしのような顔付きだったのに、なぜそれが急にアイドルのような顔付きになったんだろうか。髪色を変えたせいなのか、はたまた最近ふとした時に彼の髪から漂う爽やかだけど甘さも感じる香りのトリートメント?のせいだろうか。いやいや、髪色やトリートメント一つで顔まで変わってしまうなら世の女の子達は苦労してないのよ。ああ本当に、なんて神様は不公平なの。きっとこの金髪の元こけし顔の男は世の女の子がどれだけ好きな人の為に容姿に気遣っているかなんて知らないんだ。

だから私は、こうやって青八木一という男を困らせるの。

ポーカーフェイスで笑って、なんて言った所で簡単には笑えないのは知っているし、真面目な彼は私の冗談すら真に受けてしまう。どうにか私のお願いを叶えようとして笑うどころかうまく笑えなくて困惑していくはず。

さあ精々困るがいいわ一、私は困惑の色を浮かべた端正な顔が大好きなんだから。


「……ふっ」
「えっ…」


今、笑ったの?

間違いなく、ほんの微かだけど一の口は今自然に弧を描いた。私から笑ってなんて言ったのに予想外で驚いてしまった。
まさか本当に笑ってくれるなんて。ああ、神様はやっぱり不公平だ。微かに微笑んだだけでもこの威力だなんてどうかしている。かっこいい、かっこよすぎて気絶してしまいそう。なんて人間兵器だ。


「…お前の楽しそうな顔に釣られた」


すごいな、なんて微笑ましそうに言いながら私の手をごく自然に取ってくる一。
男の子にしては小柄なのに手は筋張っていて、私の手をしっかりと包んでくれる大好きな手。こういうところもずるいと思ってしまう私は嫌な女だろうか。


「……一はズルいよね」


何が、と言いた気な視線に気がつかないフリをして、彼の手をぎゅっと握り返した。





BACK


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -