Birthday surprise!



9月11日。今日は純太の誕生日。
ずっと何でもない日だったこの日が、愛しい人が生まれた日っていう特別な日になってからもうすぐ二桁の年数になる。純太に出会う前の私はこの日をどうやって過ごしていたんだっけ、多分普通の毎日と変わらず過ごしていたんだと思うけど、もう思い出せないや。

高校生の頃に彼と出会って、自転車競技部のキャプテンとマネージャーだった関係から恋人になって、そして今の私達の関係は夫婦に変わった。
部活の頃から純太のお誕生日をずっとお祝いしてきているから、プレゼントとかもうネタ切れだけど…それでも、今年もこうして大切な旦那さんのお誕生日をお祝いできる事が嬉しい。

いつも純太は私の誕生日にはサプライズを仕掛けてくれる。
旅行に連れて行ってくれたり、高校卒業してから遠距離になってしまったのにはるばる私に会いにきてくれたり……。
何よりも忘れられないのは、プロポーズしてくれた数年前の誕生日。今までもらった誕生日プレゼントの中で何よりも嬉しかった。これからもずっと純太の隣にいていいんだ、って思えた瞬間だった。
こうやって彼はいつも私を驚かせてくれて、幸せにしてくれる。

なのに純太は自分の誕生日はささやかでいいんだよって笑う。
私からもサプライズを仕掛けようとしても、詰めが甘いせいですぐにバレちゃう。せめて何か欲しくないの、と聞いても「名前のくれる物ならなんでも嬉しいよ」って屈託ない顔で笑うんだから。その何でもいいが一番困る事にそろそろ気が付いて欲しい。

けどそんな上手な彼に、私は今年も懲りずにサプライズを仕掛ける。
というのも今年は絶対に驚かせて喜ばせる自信があるから。まだ私しか知らない嬉しい知らせ。純太…これ聞いたらどんな顔してくれるかな。びっくりするかな、喜んでくれるかな。そう考えると楽しみで胸がドキドキしてつい顔が綻んでしまう。



「お誕生日おめでとう!純太!」
「ん、今年もありがとな。名前」


純太の好物のカルボナーラを中心に、いつもよりも豪華なオードブルが並ぶ食卓に彼と向かい合ってお互い手にしているグラスを合わせてカチン、と高い音を部屋に響かせる。
純太の手にしているグラスにはお祝い事には必ず選ぶ奮発した白ワイン、私のグラスにも純太と同じもの…ではなく、果汁100%のオレンジジュースが注がれている。それに気が付いた純太は「あれ?」と不思議そうな顔を私に向ける。


「名前、飲まねぇの?」
「うん。ちょっとお酒は控えようと思って」
「えー、禁酒なら明日からでいいだろー?今日は愛しいダーリンの誕生日なんだしさ!」
「あはは、自分で言うー?もしかして純太もう酔ってる?」


戯けた彼にまだ一口しか飲んでないじゃん、って笑いながら言えばつれねぇの、なんて高校時代から少し大人びたけどあまり変わらない笑顔を見せてくれる。

…ほんとは私も飲みたいんだけどね。純太の飲んでるワイン、高いだけあってすっごく美味しいし。
けど我慢しなきゃ。もう私の身体は、私だけの物じゃないから。


「そんな事よりも早く食べようよ!この後ケーキもあるんだから」
「はは、わかってるって。食い終わったら紅茶淹れるよ」
「…もう。今日くらいは私が淹れるのに」
「いいんだよ。オレはオレの淹れた紅茶を美味しいって言って笑う名前の顔が見たいんだ」
「さらっとそういう事いうの、ほんとズルいよね…」


何年経っても純太の口説き文句に顔が熱くなるのは私が彼の事が未だに大好きで仕方ないから、なのだろうか。全く私も純太も何年経っても変わらないな。…けど、この変わらないやり取りがすごく幸せ。

それから2人で食卓に並ぶ料理を食べ尽くして、手早く空いたお皿を片付けてデザートに用意した純太のバースデーケーキと彼の淹れてくれた紅茶を並べた。
私の誕生日の時は純太が、純太の誕生日の時は私がケーキを選ぶのが自然と私たちの習慣になっていた。今年私が選んだのは、星形のチョコレートケーキ。デコレーションもキラキラで可愛くて、もうこれしかないって殆ど即決だった。
純太も「これすげーな!」って喜んでくれて、熱心にスマホで写真を撮っていたのを見て嬉しくなったのと同時に、微笑ましくなった。
でもそうしている間にもどんどんゆらゆらと揺らめいて降下していく火に溶かされていく純太と同じ歳の数字のロウソク。早く消して!と急かせば彼は慌ててスマホをテーブルに置いてふう、っと火を吹き消した。
この光景を見るのも、もう何度目だろうか。ロウソクの数字が毎年一つずつ増えて、ああ、今年もこの人と一緒に歳を重ねられたんだなって泣きそうになるくらいに嬉しくなる。

それから前にリュックが壊れそうだって言っていたから新しいリュックをプレゼントして、美味しいケーキと純太の淹れてくれた美味しい紅茶を頂きながら他愛無い話で盛り上がって。
こうやって純太と一緒にいて、穏やかな時間を過ごせるのが幸せだと改めて実感する。昔からそうだった。彼は面白い話で笑わせてくれたり、落ち込んでいる時は励まして寄り添ってくれて。楽しい事があったら一緒に笑ってくれる。それは結婚した今でも変わらない。ずっと暖かくて心地よくて、安心する。

……気に入ってくれるかな、これからこの手嶋家の食卓に席を持つこの子も…。






ケーキと紅茶を綺麗に食べた私たちは後片付けを済ませてソファに並んで腰掛けた。テレビは付いているけどなんとなく観ているだけで内容は全然入ってこない。それはきっと純太も同じだろう。だって当然の如く手を絡ませてきた彼は、ずっと私の指の間をすりすりと撫でてきているから。…少し変な気分になってくるから困るな……。


「名前」


なに、と純太の顔を見ると幸せそうにふにゃりと笑っていた。一度だけこの顔を見た時に「すっごい緩んだ顔」と言った事があるけど、幸せだって思ったらついこの顔になってしまっていたらしい。…つまり、今純太は幸せを感じてくれているんだ。


「今年も祝ってくれて、ありがとな」


こてん、と純太は私の肩に頭を乗せてくる。彼のこんな甘え方はちょっとレアかもしれない。いつもは私がこうやって彼に甘える方だから…ドキドキしつつもいつもしてもらっているように純太の柔らかい髪を撫でると腰に腕を回されてぎゅっと抱きしめられてぐりぐりと肩に顔を押し付けられた。ああ…これはほんのり酔ってるんだなあ。まるで大きな子供だ。これから純太にもしっかりしてもらわなきゃなのに…けどやっぱり酔ってこうして甘えてくる姿は可愛いなって思っちゃう。


「私も、今年もお祝いできて嬉しいよ。純太。でもこんなのでよかったの?お誕生日くらいいいレストラン行ってもよかったのに」
「いいんだよ。オレはこうやって名前を独り占めして祝ってもらえんのが幸せなんだ」
「…じゃあ、このサプライズは嬉しくないかな?」


純太の体がすっと離れて、怪訝そうに私の顔を見つめてくる。目を見る限り酔っ払って明日記憶が朧げになってる…ってことは無さそうだ。
ここから先を口にするのはドキドキするけど、きっと大丈夫。純太なら受け止めて喜んでくれるはず。


「実はね……今年純太をお祝いしてたのは私だけじゃなかったんだ」
「え…?名前、それ…どういう……」
「……赤ちゃん、出来たの」


そう、今私のお腹の中にはもう1人…私と純太の赤ちゃんがいる。本当は妊娠がわかってからすぐにでも言いたかったけど、純太の誕生日直前だったしどうせならサプライズとして今日報告したかった。
私の告白を聞いた純太は目を見開いて硬直しているようだった。おずおずと名前を呼んでみると、ご近所迷惑なんじゃないかって位に大きな声で叫んだ。目の前で叫ばれたもんだから耳がジンジンする…!やっぱり特技がカラオケだけあって声がよく通る。


「マジ!?え、嘘じゃねーよな!?本当に!?」
「う、うん。ほんとだよ」
「あー…やっべぇ、スッゲェ嬉しい…!あーもうなんつーサプライズだよ!」


純太はすごく嬉しそうに笑いながらも大きな目にうっすらと涙を浮かべて、普段すらすらと言葉を紡ぐ口はさっきから「嬉しい」、「マジか」、「ヤベェ」っいう単純な単語しか発していなかった。まさかここまで喜んでくれるなんて…本当にこの人と一緒になれてよかったなと心の底から安心した。


「私からのサプライズ、喜んでくれた?」
「当たり前だろ!ははは……マジ、嬉しすぎて言葉出てこねぇよ……最高のプレゼントだよ、名前」


今度はさっきよりも強く、苦しい位にぎゅっと抱きしめられて思わずくぐもった声で苦しいと伝えるといつもよりも大袈裟に謝られて私を抱きしめる力が緩んだ。


「オレ、これからもっと頑張るよ。名前とチビの為に」
「純太は頑張りすぎるから心配だよ。でもありがと…パパ」


パパ、っていう呼び方を噛み締めているのか、純太は唇をぎゅっと噤んで体は微かに震えていてなんともいえない面白さで思わずぷっと吹き出しそうになってしまう。
その面白い表情をして強張った頬を両手で包んで、ちゅっと一瞬触れるだけのキスを噤まれた唇に。


「私、純太と出会えて、結婚できて…親になれて、すっごい幸せだよ。ありがとう、生まれてきてくれて」
「…オレも。毎日名前が側に居てくれんのがすっげぇ嬉しいんだ。オレの方こそありがとな、こんなオレを選んでくれて」
「こんな、なんて言わないでよ。私にとっては最高の…そう、愛しいダーリン、なんだから」
「覚えてたのかよ、それ。ネタで言ったのによ」


ふふふ、と笑えば頭に手を回されて、今度は頭を彼の胸にくっつけられるように優しく抱き寄せられて髪を撫でられる。聞こえてくる鼓動も、体温も、匂いも…もう何年も感じているのに、ずっとずっと愛おしくてたまらない。手嶋純太という存在がもう愛おしい。きっと私は彼と別れるような事があったら生きていけないんじゃないかと思うほど。


「大好きだよ、純太。これからもずっと、ね」
「ん、オレも。名前が大好きだよ。多分一生な」


お互いにくすっと笑って、どちらからともなく唇を重ねる。


「来年の純太のお誕生日は、この子も一緒にお祝いできるね」
「そうだな。楽しみだなー…どっちだろうな、女の子か男の子か…どっちが産まれたって名前の子だからな、可愛いのは確定だな」
「それはわからないけど…でも、どっちにしても私は純太に似て明るくて優しい子に育って欲しいな」
「オレに似たら可哀想だなー…毎朝天パと格闘するハメになっちまうよ」
「あはは!それは可哀想!」


ったく、なんて、自分から言ってきたくせに困った顔で純太は笑う。

…どんな子が産まれたって、きっと大丈夫。こんなに暖かい家庭をくれた純太がパパなんだもん。絶対に前向きでいい子に育ってくれると思う。ううん、育ててみせる…純太と一緒に。





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