最近俺は子供に好かれているらしい。正確に言うなら、好きの意味がちょっと違う気がする。愛されている、の方が合っているかもしれない。言っておくが俺はロリコンじゃない。俺が一方的に好意を寄せられているだけだ。
噂をすれば、今日も早速本部内を走り回る軽い足音が聞こえてきた。
「たちかわー!たちかわけー!」
「おー今日も来たか、チビ」
「チビじゃない!とーまみたいに呼んで!」
「ええー…」
以前当真に『お嬢さん』と呼ばれたのが相当お気に召されたらしいこの傍若無人なお嬢さんは、俺の足元まで来ると、がっしりと足にしがみついた。
「どうせヒマしてるんでしょ?でぇとしよ?」
「暇じゃないからデートしない」
「かざまくんが、たちかわ今日もがっこーずる休みしたって言ってた!」
風間さんめ…余計なことを…。
確かに暇ではあるが、昨日の晩から諏訪さんたちと飲みながら麻雀していたせいで完全に二日酔いだから勘弁してほしい。
「あれだ、昨晩は防衛任務で…」
「ふーん…しんじくんたちとジャラジャラするのが任務なんだ?」
冬島さんまで!
まあ風間さんより冬島さんの方が接点があるから、こっちは仕方ない。チビの父親が技術開発室にいるから、こうして本部内を闊歩しているわけだし。
俺がガンガン痛む頭を悩ませて次の言い訳を考えていたら、チビはにししと笑い出した。
「でぇとしてくれなきゃ、朝までおさけのんで、ジャラジャラして、がっこーずる休みしたってたちかわのおししょーさんに言っちゃおうかなー?」
「ちょっと待て!」
いつどこで俺の師匠が忍田さんであることを知ったのか分からないが、忍田さんに告げ口されるのだけはまずい。マジでヤバい。
「よし、わかった。突き合ってやろう」
「わーい!」
喜ぶチビの前に拳を突き出した。
「ほら、こい」
「……なんかおもってたのとちがう…」
不満そうな顔で、ぺちぺち俺の拳を叩く。
「そんな攻撃じゃ俺は倒せないぞ?」
「そーゆーのじゃなーいー!ほら、手をぎゅってして!」
小さい手を差し出されたので、仕方なく握る。但し、両方の手を。
「んん?片方はいいの。いらない」
「いや、両方だろ」
そう言って俺はこの小さな子ども…確か5歳を、ハンマー投げの要領で遠慮なく振り回した。
「ほーれ、飛んでけー!」
「きゃー!」
歓声とも悲鳴ともつかない声をあげて飛んでいった小さな身体は、どうしてそんなに見事に出来るのか分からない程の綺麗な受け身を取って床に転がった。
あー…やべぇ、吐きそう。調子乗った。
「もーいっかい!」
何故か目を輝かせて走ってくるチビに、ものすごく後悔した。
「もうやだ…」
「えー!」
チビは口を尖らせてぶーぶー文句を言った後、急にしゃがんで足を押さえた。
「いたい」
「えっ!?」
さすがに子供に怪我させたとか笑えないぞ、俺!
慌ててしゃがんで顔を覗き込むと、チビはニヤリと笑って、その小さな手で俺の頬を挟んで、軽くキスをして、元気よく立ち上がった。
「ふっふっふっ、すきありー!」
やべぇ…これがせめて高校生くらいだったらまだときめけたんだろうけど、これじゃあロリコンだ…。誰かに見られてたら明日には皆からロリコン呼ばわりされる…!
慌てて周囲を確認したが幸い誰もいなかったので胸を撫で下ろす。
全くマセガキって恐い。
「そういうのは10年早いぞ……お嬢さん?」
そう言って俺は、今にも吐きそうなのに、もう一度傍若無人なマセガキの手を掴んでスイングして、年齢差から言って絶対に追い付かれる訳がないとは分かっていたが、何となくさっきよりも遠くに飛ばして、物理的に引き離した。