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『あなたがいれば寂しくない』

本部に来て、ランク戦のブースに入って、そこそこ戦ったら帰るか、たまに隊関係ない混合チームで防衛任務につく。前は隊に所属していたけど、少し前に解散したのでそれ以来どこにも所属していない。自分で隊を組める程人脈もないし、責任感もない。前のチームだって結局はコミュニケーション不足で解散したようなものだった。
人と話をするのは得意じゃない。話しかけられたら話は出来るけど、自分からは全然出来ない。

「お、みょうじ。今日おれの誕生日だから祝ってくれ」

そんな私に、出会い頭に何の挨拶もなくそう言ってきた太刀川さんを、思わず睨んだ。
この人は例外。人のことをいいポイント稼ぎだと思って絡んでくる人だから、邪険に扱っても大丈夫な人だ。

「………おめでとうございます」
「おう。だから何かくれ。もしくは飯奢れ」

女子高生にたかろうとする大学生ってどうかと思う。
即お断りして踵を返したが、太刀川さんはしつこくついて来る。鬱陶しい。

「なー飯奢って」
「嫌ですって!何で私なんですか!」
「いやー、みょうじ、くま以外に友達いなさそうだから構ってやろうかと」

確かに友達は少な…多くはないけど、太刀川さんにだけは心配されたくない。
イラッとして歩く速度を速めたけど、うるさく纏わりついて来る。
仕方ないから何かやるか、と思ったけど、誕生日プレゼントなんて人に贈った試しがないので、とりあえず携帯で適当に調べてみる。

「…何でもいいんですか?」

後ろをついてくる太刀川さんに声だけ投げる。ゴミでなければ何でも良いとの返事に、太刀川さんを方を振り返って、携帯画面に表示された星形の白い花の画像を見せた 。

「じゃあ花あげます。 ニコチアナ。葉っぱはタバコの9倍くらいニコチンが多い。別名ハナタバコ」
「…おれ、タバコは吸わないんだけど」
「8月29日の誕生花です」
「ほー…?」

あまりピンとこないらしい。首を傾げた太刀川さんに、適当に誕生花というものを説明する。
生まれた月日にちなんだ花で、それぞれの由来は国とかによって曖昧だ。そんな誕生花と切っても切れないのが花言葉。これもまた国や地域で意味合いが違うけれど、まあそれはどうでもいい。

「何でその…ニコチ…ンなんだ?有名な花なのか?」

名前も覚えてもらえなかった花は、見た目はかわいらしいけど、私も正直今知ったばかりなので、どうすれば手に入るかはよく分からない。
知らない、と首を横に振ったら、ツッコミを入れられた。

「でも、この花言葉を太刀川さんに贈りたいと思ったんですよ」

花言葉は、大体贈り物に適した物が多いイメージだ。母の日に贈るカーネーションは『母への愛情』だし、ユリは『純粋』『無垢』、マーガレットは『真実の友情』『誠実』と基本的に綺麗な感じ。ただ、その逆にネガティブな意味を持つ花も少なからずあるわけで。

「ニコチアナの花言葉は『私は孤独が好き』なので、太刀川さんにぴったり!」
「どこがだ」
「良い歳して恥ずかしげもなく黒のロングコート着てる辺りとかですかね」
「いや関係ないだろ」

中二病っぽいって言ったらさすがに首絞められそうだな、と思っていたら、太刀川さんはポンと手を打った。

「あ、みょうじがか」
「…は?」

私は別に中二病患った覚えはない。
太刀川さんはしかめっ面の私を置いてきぼりに勝手に話を進める。

「みょうじがニコチンくれるってことは、みょうじが『私は孤独が好き』だって意気がってるんだろ?」
「違います」
「そうだよな。みょうじはくましか友達いないからな」
「だから、いますってば!」

具体的に名前は挙げられなかったけど、太刀川さんにはそれも聞こえていないらしい。
仕舞いには「仕方ない、ランク戦付き合ってやろう」と言い出したので、それはもうただのいつも通りの太刀川さんだった。

「お前はおれに誕生日プレゼントとしてがっつりポイントをくれて、終わったあとは飯おごってくれる。おれは一人寂しくしてるお前を構ってやる。名案だろ?」

ちっとも名案じゃない。私が一方的に損するだけだ。
私の不服げな顔に、太刀川さんは追い打ちをかけるように続ける。

「練習相手、くましかいないだろ?」
「……そんなことないですし」
「最近、みょうじが強くなってきてるって米屋から聞いたけど、何でだろうな?」
「そっ、れは…」

誰の弟子にもならず、一人自力で訓練してきて、対人戦するのはランク戦だけと言っても過言じゃない私が、強くなってくる理由があるとしたら、それはもう一つだけ。格上どころかまだマスターランクに到達していない私からすれば雲の上の太刀川さんと何度も戦ってる以外に思い当たるものがない。
にやにや笑っている太刀川さんは本当に腹立たしいし、恩着せがましいけど、事実でもあるわけで。

「………きょ、今日だけですから!ご飯おごるの!ポイントはあげません!」
「仕方ない、それは妥協してやる。寿寿苑の食べ放題でいいからな」

妥協って何だ!
いつか絶対太刀川さんからポイント奪ってやると、小さく呟いたら、それはちゃんと聞いていたのか、「おー、来い来い。待ってるぞ」なんて言いながら余裕綽々な顔で笑ってたから、本当に腹が立って、一度もやったことなかったけど一発ふくらはぎ蹴ってみたらそれも笑って流された。

「お前、いつもそのくらい喋ればいいのに」
「太刀川さんだけです!無駄に疲れる!」

あーもう!と頭を掻いて、どうにか今回の焼肉で縁を切る…とまではいかなくても、できるだけ近付いて来ないでもらえないか考えながら、先に歩き出した背中を追う。

そんな私がニコチアナに『私は孤独が好き』とは別の花言葉があることを知るのは、来年の太刀川さんの誕生日プレゼントを考える頃なんて、今の私は当然知らない。


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