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唐沢さんを捕獲

本部内に宛がわれた自身の執務室に唐沢が戻れば、部屋に備えられたソファの上に我が物顔で転がったなまえが、入ってきた人には全く関心がないといった様子でスマートフォンを弄っていた 。

「なまえ、何をしているんだい?」
「スマボ。柚宇がやってた」
「…ああ、」

メディアの小遣い稼ぎか、と続く言葉は思うだけに留めておく。
脱いだ上着を椅子に投げかけ、ネクタイを緩めながら、なまえの寝そべるソファのひじ掛け部分に腰を下ろす。

「俺に構ってはくれないのかな?」
「忙しいから後で」

潔い程の即答で断られると、なかなか面白くない。

「今捕まえておかないと、『後で』はないかもしれないよ」
「後にしなくたって、大人しく捕まらないでしょ?」
「君に捕まるのなら本望だ」
「うわっ、嘘くさい!」

唐沢はするりと自身のネクタイをほどくと、それで好きに縛るよう、なまえに手渡す。
なまえはスマートフォンの上に被った唐沢のネクタイをまじまじ見つめてから、冷たい眼差しで唐沢を見上げ、いつになく低い声で呟いた。

「…そういう趣味?」
「君が疑うからね」

なまえは面倒くさそうにネクタイを拾い上げると、一旦スマートフォンをテーブルの上に避難させて、ぴしっと両手でネクタイを引っ張って鳴らす。
何だかんだ言いつつもやる気はあるらしいなまえに、大人しく両手を差し出せば、心なしか楽しそうに唐沢の腕を縛り上げた。

「はい、捕まえた!」
「…それだけ?」

鼻を鳴らして誇らしげに立つなまえに反して、唐沢は拍子抜けして、縛られた腕を観察するように持ち上げる。

「他にどうしろって言うの?身代金要求すればいいの?」

防衛任務で稼いでいるのでお金には困っていないどころか、唯我の家ほどではないが、なまえの父親の経営する会社がそれなりにボーダーに資金提供しているので、唐沢を人質に身代金を要求したところで、その金の出所が実家であれば意味がない。
悩んでいると、唐沢は軽い口調で物騒なことを提案してきた。

「それなら、君に捕虜の扱い方を教えてあげよう」

唐沢はさっきまでなまえが寝転がっていたソファに座ると、なまえを目の前に立つよう呼ぶ。

「俺の言う通りに」
「…随分口達者な捕虜ね」

呆れながらも、唐沢の言う通りに、唐沢のワイシャツのボタンを外していく。

「…何かこれ、違わない?」
「洋画の拷問シーンは大体上半身裸だろう?」
「…まあ、そうね」

身体の前で腕を縛ったので、ワイシャツのボタンを外すのには少し邪魔ではあったが、やけに協力的な捕虜が腕を動かしてくれたので、何とか全て外し終える。
唐沢はインナーシャツを着ているものの、その上からでも身体を鍛えていることが分かり、思わず腹を触ってみれば、思った通りの硬さがあった。

「鍛えてるのね…」
「ラグビーやっていたからね」
「それ、昔の話じゃないの?」

唐沢はなまえの疑問には答えず、あとは好きにしていいと全身から力を抜いた。
好きにしていいと言われたところで、生身で叩いたところで唐沢に然程ダメージはないだろうし、トリオン体で叩いた日にはポイント減点で済めばいいが、程度によっては何かしらの処分もありうる。

「おや、拷問はやらないのかい?」
「叩いて怪我させたら、忍田本部長に告げ口するんでしょ?」
「…確かに、それを盾に君のお父上から莫大な慰謝料を取るという手もあるね」
「やっぱり」
「でもそれは君との約束を破ることになる」

唐沢はいたずらっ子のような笑みを浮かべて、名案と言わんばかりになまえに向けてウィンクをした。

「怪我をさせずに痣をつければいい」
「できるの?」
「ああ。…そうだな、試しにどこかつけてみるか」

誘われるままにインナーをめくる。ラグビーを過去にやっていたからと言って、未だにこれだけの筋肉を維持しているのは相当だ、と思わず見惚れてしまう。

「口をつけたら、肌を吸うだけだ」

少し屈むだけで届く鎖骨の下辺りに唇を寄せる。ちゅぷりと、音を立てて唇を離せば、赤い痕が残った。

「赤くなったけど痛くないの?」
「痛くない」
「ふーん…」

指先でその痕をなぞって、はたと気付く。
確かに痕はついたけど、これ痣じゃなくてキスマークじゃないの?

「…ちょっと待って。これじゃまるで…、」

私が襲ったみたいな…、と口を動かしたはずが声にならない。
段々と顔が赤くなるなまえを前に、唐沢は息を強く吐くようにして笑った。

「変態」

服ははだけて、腕はネクタイで縛られ、肌にキスマークを残した唐沢の前にいる…。言われるままにやったとは言え、変態と呼ばれても仕方がない状況だった。

「あ、あ、あんたがさせたんでしょうが!バカ!」

慌てて身を起こすと、突然、確かにネクタイで拘束していたはずの腕に腰を抱き寄せられた。

「ちょっと、何で腕!」
「ああ…ネクタイは簡単に抜けられるよ。知らなかった?」
「知るわけないでしょ!」

引き寄せられる力に勝てず、倒れ込むように唐沢の腕の中に収まる。露出した胸板に手を当て、遠ざけるように押してもびくともしない。
唐沢は静かに笑いながら、なまえの耳元に唇を寄せた。

「俺を捕まえたんだ。最後まで責任取らないと」
「図々しい!」

嫌がるなまえが押す胸の上に残った痕に、唐沢は口が緩むのを押さえられなかった。


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