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忍田さんを捕獲

スマートフォンを横に倒して両手で持って、指先で何度か叩いていたなまえは、その指を止めてため息を吐いた。

「迅くんがほしい」

突然のなまえの告白に、忍田は一瞬マグカップを握る手が揺るみかけて焦る 。
一言で「ほしい」と言っても、その意味はいくらでも受け取りようがある。一番邪なものが脳裏を過ったのは相手だからであって、なまえに限ってそれはないだろう、と問われてもいないのに自分自身に弁明してから、平静を装って尋ねた。

「それは…隊に勧誘したいという意味か?」
「うーん?まぁそうと言えばそうかなぁ。迅くん強いし、攻撃範囲広いし、何より機動力が魅力だよね」

なまえの言う通り、確かに迅は強い。しかし風刃を手放した今、果たして攻撃範囲が広いと言えるだろうか。第一その攻撃範囲を誇る風刃はブラックトリガーだ。S級隊員は隊を組めない。
凉の微妙な肯定は、もっと複雑なもののような気もした。
例えば、迅を玉狛から引き抜こうと考えているとしたら…。

「捕獲した時の報酬、ポイントじゃなくて本体がいいなぁ」

重々しく考えていた忍田を余所に、なまえは我儘言っても叶わないと分かっているからこそ投げやりに言う。
なまえの発する言葉自体は分かるのに、その意味がすんなりと頭に入って来ず、ようやく話が噛み合っていないことに気付いた。

「…何の話だ?」
「え?通じてなかったの?メディアが出してるソシャゲだよ」

見せるように傾けられたスマートフォンの画面には、前に根付から見せられた覚えのあるゲームが表示されていた。

「この緑の捕獲装置で捕まえると、イベントガシャで使えるポイントが貯まるんだけど、ポイントより風刃装備の迅くんがほしい。☆5でいいからほしい」

防衛任務の報酬をスマボに注ぎ込もうかと真剣に悩み始めたなまえを横目に、忍田は持っていたマグカップをテーブルに置いた。

「私では駄目なのか?」
「そりゃ、忍田さんなら絶対強いし、できるなら捕獲したいけど、まだ実装されてないからなぁ。手に入らないよ」
「捕獲したいのなら、すればいい」
「だーかーらー、捕獲したいけど!」

なまえが顔を上げれば、忍田は緩く腕を広げて、首を軽く傾げた。

「ん?捕獲してくれるのだろう?」
「うああ…」

目を隠すように手を当てるなまえから、やんわりとスマートフォンを奪えば、なまえは大きなため息一つ吐いた後「それ、ずるい…」と呟いて、忍田の胸に飛び込んだ。
なまえの背に手を回すと、なまえの身体から力が抜けるのが分かる。そのまま撫でてやれば、なまえはまたため息を吐いた。

「これじゃあ私が捕獲された側だよ…」
「ゲーム相手に大人気なかったか」
「ゲームじゃなくて、迅くんに妬いたんじゃないの?」

あっさり見抜かれた理由に、音もなく苦笑いしたものの、これだけ近くにいるのだから、恐らく気付かれただろう。

「…さあ、どうだろうな」

諦め半分に言った言葉に、なまえはくすくす笑いながら、抱き締める腕に力を入れた。


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