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下戸からの誘い

部屋に段ボール箱が増えた。
自分が思っていた以上に部屋に生活感が出ていたらしい。いつの間にか増えた調理器具を段ボールに仕舞う。この辺は唐沢くんに買わされたやつだ。あれから少しは上達したと思う。多分。

「ダンボール増えたね」
「おー、唐沢くん。何だ?手伝いに来てくれたのか?」
「そんなところ。お昼まだだろう?食べに行こうか」

確かにここ数日、引っ越しあるからと冷蔵庫の中身をとにかく減らして、今は水くらいしかないので、唐沢くんと一緒に外に出て、近所のファミレスに入った。

「明日引っ越しなのに、半分くらいしか進んでなかったけど」
「何と言うか…やる気が…」

手厳しいコメントに視線を泳がせる。
新しい家は、大学からかなり離れている上に、今の家より古くて、狭くて、家賃が上がるという、都会と田舎の差を猛烈に感じる物件だ。
なので、持っていけないものとの選別がめんどくさい。

「キャンパスが変わらなければよかったぜ…」
「でも新校舎だろう?綺麗でいいと思うけど」
「まあなー」

引き留められたところで今更別の学部に移る気もないので、これでいいんだけど、やっぱり淋しさはある。

「それより向こうでみょうじがまたコンビニ飯になることが不安だよ」
「そこかよ!他にもあるだろ!」

唐沢くんは優しく楽しそうに笑ったから、多分今気遣われたんだと思う。こういうところがたまに憎くて仕方がない。雑に扱ってくれていいのに。
テーブルの下ですねを蹴ってひとまず満足した。

「明日は業者何時に来る予定?」
「あー…兄貴たちがやってくれるから業者頼んでないんだ。家に持って帰ってもらうものもあるし。多分10時頃かな」

たかが妹の引っ越しに皆して休み取ることもないのに。シスコンか。いやシスコンだったら妹の首絞めたり、投げたりしないか。
唐沢くんは「分かった」と頷いたあと、唐沢くんにしては珍しいことを言い出した。

「夜、うちで飲まない?」

滅多にない唐沢くんからの酒の誘い。下戸のくせに、一体どういう風の吹き回しなんだか。

「…唐沢くん飲まないのに?」
「飲まないけどもらったから」
「飲めないのに?」
「飲めないけど」

こんな下戸に酒あげても、最後は私の喉を通るってのに。誰だ酒あげた奴。
先日からよく分からない面ばかり見せてくる唐沢くんである。

「なら唐沢くんの代わりに飲んでやらないとな!」
「ちょっとは付き合いたいけど、駄目だったらごめん」

そこはいつものことだから問題ない。
その為にはまず日中に全ての荷造りを終えなければならない。ちょっとやる気が出てきた。
最近酒の席にはいいことないけど、相手唐沢くんだし、酒はやっぱり大好きなのだ。


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