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うわばみと『唐沢くん』

部活は今は春の大会の時期だ。まだ雪は完全には溶けきってないけど、グラウンドは問題なく使えるので、部活に問題はない。
そんな忙しく、部活にいられる残り僅かな時期にも関わらず、私は部活を休み続けている。
黙々と段ボールに荷物を詰めて、来年から通うキャンパスまで持っていって、また出す。要は引っ越し。何年か前まではうちの学部は都会のキャンパスにあったらしいけど、校舎の建て替えで移ってきて、工事が終わったからまた元の場所に戻るだけなんだと教授が言ってた。
しかし新校舎に移動する研究室とかが多いわけで。エレベーターもそんなにないのに階数だけは高いわけで。エレベーター待ちの渋滞が面倒で、ひーひー言ってる情けない男を階段の踊り場で追い抜かしつつ、紙ばっかり詰まった段ボールを運ぶのはやっぱり疲れる。それを何日もやるとか本当に疲れる。ケチらないで引っ越し業者とか運送業者とか使えばいいのに。大体自分の家の引っ越しの準備もまだなのに。
夕方に解放されて、ここから今の家に帰るには2時間くらいかかるから、帰る頃には当然お腹が空く。
吊革に掴まってうとうとしていたら、ポケットに入れていた携帯が震えたので、もしかして唐沢くんか?と期待して携帯を見ると、マネージャーの先輩から宅飲みの誘いが来ていた。
最近酒にいい思い出が全くないので気乗りしないけど、いるのはマネージャーだけらしいし、最近部活に顔出せてないし、行くことにした。

「おー、久しぶりー?最近雑用してんだって?」
「最近こっち来られなくてすみません」
「姐さんいない間にいろんなことがあったんだよ」
「そうそう。とりあえず飲め飲めー」

それはもう楽しそうな女性陣と、マネージャー全員にしては一人足りない面子に、さすがの私でも何の話題かは察した。
案の定、先日の、私は覚えてないから唐沢くん曰くだけど、問題の後輩ちゃんと私を宅飲みに誘った先輩と、後輩ちゃんと仲良かった後輩の三人の話題だった。
唐沢くんが『後始末』をしに行って、終えて帰ってきたのは知ってる。何とかなったらしいけど、一応大人しくしてろと言われたから、都合よく回ってきた荷運びを面倒だけどラッキーと思いつつやってたので、今の部活の状況まで頭が回ってなかった。そうだよな、大会前にトラブル起こしたらタダじゃ済まないよな…。と、思いきや部活の方は唐沢くんが活躍しているらしい。元々いい選手だったから、4年が引退した今活躍するのも頷ける。
そして問題の人たちは、後輩ちゃんは自主退学、私を酒に誘った先輩は内定取り消し、後輩は休学。後輩ちゃんは痴情のもつれだろう説が挙げられてるが、先輩の方は沈黙貫いて状況が分からなく、後輩に至っては音信不通らしく自主退学もありうるんじゃないかと、好き勝手推測していた。
…どう聞いても唐沢くんの『後始末』が危ない方向だった。何だか裏稼業みたいになってきてるけど大丈夫なのか?唐沢くんの将来が不安だ…。

「姐さんも唐沢くん関係で大変だったじゃん?もう面倒な奴はいないから、唐沢くんと付き合えよー」

その問題の関係者なんだよなぁ…と内心ひやひやしながら聞いていたら、突然こっちに話題が飛んできて少し焦った。
大変だったのは唐沢くんだけだと思うけど、それと私が唐沢くんと付き合うの関係なくないか?

「いや…今更付き合うような関係じゃないですし」
「何だその夫婦感…」
「それにほら、私酒蔵の跡継ぎと結婚しますから!」


私の発言も周りの冷たい視線も相変わらずだけど、自分で言ってて何だか虚しい。何でだ。

「実際のとこ、姐さん的にはどーなのよ?唐沢悪くないと思うけど」
「そうだよ、お互い恋人いないんだから付き合ってみたらいいんだよ」
「えー…付き合って何するんですか…」
「一緒に買い物したり、一緒に映画見たり、ご飯作ってあげたりとかさー。いろいろあるじゃんか」

いろいろ例を挙げられて、ちょっと思い返してみる。
一緒に買い物は…よくスーパーには一緒に行くし、ついでにご飯作ってくれる。私は作らないけど。
映画は家でホラー映画マラソンさせられたのをカウントすればあるけど、あれは自分の中ではなかった事になっている。思い出してはいけない。

「姐さん…もう全部やってるよね」
「いやっ!いやっ!それは別に恋人じゃなくてもありますって!」
「えー、じゃあイチャつこう?おうちデートとかどうよ」

どうよ、と言われても…唐沢くん頻繁に家にいるんですけど…。
あれ、これおうちデートなのか?いやいや、イチャついたりはしてないから…いや、そもそもイチャつくような関係じゃないから!

「やってない!」

強く言いきったが、そもそも「付き合って何するんですか」という私の発言から始まったので、この返答は質問からずれてることに気付いて、慌てて「お断りします!」と言い直したが皆怪訝そうな顔をする。

「そうは言っても、この間の送別会でキスしてたじゃん」

言われるまで完全に忘れてた。
皆の表情の意味が分かって、墓穴掘ったことに気付いて、頭を抱えて悶絶した。


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