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うわばみと彼女2

送別会。私が大量に酒が飲める日の一つだ。
4年の先輩たちは1月末で引退で、その時期皆の都合が合わなくて送別会は2月になってしまった。なのでちょっと早いけど私の送別会も兼ねてる。
年末に忘年会でしこたま飲んだけど、今回も浴びるように飲む予定だった。過去形。

「克己君ももっと飲んで飲んでー!」
「みょうじ、飲みすぎ」

唐沢くんに話しかけるわざとらしく酔った後輩ちゃんと、後輩ちゃんをガン無視して私の酒を奪う唐沢くん。
楽しくねー…楽しくねーよー…。未だかつてこんなに帰りたい酒の席があったか。いや、ない。
忘年会の時は唐沢くんは私の家に引きこもっていたし、後輩ちゃんもいなかったし、気心知れた人ばっかりで楽しく飲めた。新年会はそもそも私が実家に帰ってたし。というか、そんなに雑な扱い受けてもまだ「付き合ってる」と称すその度胸凄いな…。何だその執念。
あんまりに唐沢くんがうんざりしていて可哀想なので、マネージャーの先輩を凝視して助けを求めると、気付いた先輩が指だけで『誰を引き抜く?』と合図をくれたので、こちらも目だけで『唐沢くんでお願いします』と返事をすれば、先輩は他の男の先輩をもう一人引き連れてにこやかにやってきた。

「唐沢ー、最後くらい付き合えや」

唐沢くんの表情が固まる。この男の先輩は私がいつも最後にサシ飲みする相手、つまり私のうわばみ仲間だ。唐沢くんの視線が私に助けを求めてくるが、今日に限ってはそっちが助かる道だ。
唐沢くんにも視線だけで『行ってこい!』と伝えると、渋々立ち上がって先輩二人に挟まれて連れていかれた。ひとまず唐沢くんは大丈夫だろう。多分。

「あっ私もー」

唐沢くんの後をついていこうとする空気読めない自称彼女は私が相手をしなければ、唐沢くんを隔離した意味がない。

「嫌われてるのに、付き合ってるとか馬鹿みたいだねー」

我ながら完璧な嫌みのない作り笑いだと思った。
幸いなことに私はもう2ヶ月もこの部にいない。どうせいなくなるんだから、せめていつも料理を恵んでくれた唐沢くんに恩返しがしたい。
私の売ったケンカを彼女は心なしか嬉しそうに買ってくれた。



唐沢くんの調べた内容の半分以上は知っているので、彼女の心底理解しがたい趣味も知っている。
うちの部で彼女がいることを公言している人はいない。本当は彼女がいる人はいるんだけど、他校だったりとかして詳しくは知らないのがほとんどで、自分で言う事じゃないけど、部内で付き合ってる疑惑がかかっているのは私と唐沢くんくらいだ。そんな中でこの性悪女は唐沢くんに、と言うよりも、私に目をつけたらしい。続きは目の前で楽しそうに喋ってくれている。

「どんな気持ちですかあ?私に取られて悔しいですかあ?」

要は私を蹴落としたくて仕方がない。それだけ。
めんどくさい事が嫌いなだけだけど、傍から見るとサバサバしているらしいし、マネージャー業も慣れてるから軽々やっているように見えるらしいし、酒の席ではガンガン飲めるからと、わりと部内での自分の評判は良い方らしい。絶対女としては見られてないけど!
でも彼女には、私が別段かわいくもないのにちやほやされてるように見えた。…確かに私と後輩ちゃん並べたら、誰の目から見ても断然後輩ちゃんの方が可愛い。自分よりも可愛げが微塵もない男っぽい女がちやほやされていたのが面白くなかったようだ。
更にラグビー部といういかつい男たちの中でも比較的かっこいい部類の唐沢くんと付き合っているともなれば…いや実際は付き合ってないけど…理不尽さみたいなものを感じたのかもしれない。

「そもそも唐沢くんは私のものでも、私の彼氏でもないし」

彼女の欲しい言葉とは真逆のことを言ってやる。
彼女が見たいのは私が悔しがる姿だ。馬鹿らしい話だけど、本当にそれだけというのが頭が痛い。
しかもこれが初めてじゃないらしい事は唐沢くんの調べで知っている。人の男を寝取るのが趣味って頭おかしいだろ。
そこら辺のピッチャーを掴んで彼女のグラスに並々注いで、どんどん酒を勧める。
そういえば、こうやってガンガン人に飲まそうとするのは1年次以来だ。進級したら唐沢くんが酒を強要されることがなくなったから。ということは、彼女は私の本領を知らないということになる。彼女も余程酒には自信があるのか笑っている。
悔しがる私が見たい?見たいと思われて見せる奴がどこにいる。飲もう。どちらかが吐くまで。

でもこんな形で、こんな理由で、浴びるように酒を飲みたくなんかなかった。


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