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うわばみとサンタクロース

世間ではクリスマス・イブは何でか知らないけど恋人同士仲良くする日らしい。私には「短期バイト美味しい!」以外ないけど。
こんな寒い日に馬鹿らしく、似合いもしないミニスカサンタの格好で夜中まで路上でケーキを売って、余ったケーキを1つ自腹で購入して帰る。たまには贅沢にケーキ食べたっていいだろう。
1本残らずクリスマスツリーに改造された並木にも、電気代高そうな眩しく飾られた家も、夜道すれ違うカップルの多さもまるで興味がなかった。家に帰れば酒があり、手にはホールケーキ。最高の贅沢だ!
ご機嫌な足取りで真っ暗な家に帰って、部屋の電気をつける。

「まぶし…」
「おう、すまん。…は?」

反射的に謝って、そのおかしさに気付く。
ベッドの上の布団がもぞもぞ動いている。
確かに家の鍵は閉まっていたはずだ。じゃあ何だ、これは。
布団を無理矢理剥ぐと、誰かは分かってはいたけど、何故か唐沢くんが寝ていた。

「寒い…」
「…実家帰ったんじゃなかった?」
「明後日の夜行で帰る…」

再び布団に潜り直して、腕だけ布団から出した唐沢くんが指差した先には、実家に帰る時の荷物らしきものが置いてあった。
ちょっと待て。それまでうちに居座る気か。

「みょうじの家から駅行く方が近いし…何がなんでもあの女に会いたくない…」

なるほど、それで後輩ちゃんの行動圏外のうちに逃げ込んできたのか。大学に行くのには線路を越えないといけないから不便だけど、そういう利点もあったとは。

「大変だな、君も」
「みょうじは何してた?」

帰りの遅さを指摘されて、私は自慢気に仁王立ち。

「短期バイトでケーキ売ってきた!ケーキ手に入れた!夕飯!」
「こんな時間からケーキ食べたら太る…」
「うるせー!」

脇腹にチョップすると、情けない声が出てきた。

「寒い中、ミニスカとか馬鹿馬鹿しい格好で延々とケーキ売ったんだ!頑張ったご褒美!」
「ふーん…」

のそりと唐沢くんが起き上がった。
何か不気味だ。墓場の地面からもこもこ盛り上がってきたゾンビみたいだ。

「先にシャワー浴びてきて。その間に、頑張ったみょうじに熱燗を用意しようかな…」
「……今…何て…?」

幻聴だろうか。
唐沢くんの口から酒のサービスなんて言葉が出てくるわけがない。

「熱燗いらない?」
「おお、唐サンタさん!ありがとう!」

讃えよう!今日は唐沢くん…否、唐サンタさんを讃えよう!いつも唐沢くんには酒を取り上げられてばっかだけど、唐サンタさんはいい子にしてた子供に熱燗を!用意してくれる!もう二十歳だから子供じゃないけど!いい子に!熱燗!
私がご機嫌で小躍りしていると、唐沢くんは眠たげな目を瞬かせながら「サンタはいい子にしていた子供に酒は振る舞わないよ」と呆れて苦笑してた。


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