archive | ナノ

下戸と災難

人肌恋しくなる季節、まさかの唐沢くんに彼女が出来た。しかもあの後輩ちゃんである。

「何で!」
「いやー…知らないけど…」
「私の中で唐沢の株が落ちた」

何故か私が詰め寄られて困惑する。確かに前にサシ飲みした時にも嫌いって言ってたけどそこまでか。
しかし、めんどくさい。こんなことで人間関係拗れるのはめんどくさい。
練習終わった帰り道、再び一人でそう思って、自分は凄く淡白だと思った。
唐沢くんが誰と付き合おうが関係ないし、同期の子が怒っても私には関係ない。ただ、唐沢くんが後輩ちゃんと付き合うことで、部内の人間関係がぐちゃぐちゃするんじゃないかと、嫌な予感がして背筋がぞわじわする。
まあ当人たちの問題を私が何か考えても仕方ないしな、と考えが一段落したところで、有り得てはいけない光景が飛び込んできて私の思考は完全停止した。
とりあえず、何も考えず走って、何も考えず家のドアを開けた。

「お帰り」
「馬鹿か!お前は馬鹿なのか!」

思わずお前呼びしてしまったが、彼女が出来たとか聞いたばかりの男が彼女以外の女の家にいるんだから仕方ない。

「彼女出来たのに私んちにいていいのかよ!まがりなりにも女だぞ、私!」
「知ってるけど」
「彼女んち行け!」
「嫌だ」

唐沢くんは不機嫌そうにフライパンを揺すっていた。チキンライスがフライパンから顔を出す。夕飯は多分オムライスだ!
じゃなくて!

「…嫌なのかよ?」
「付き合いたくて付き合うことになったわけじゃないから…」

絶対にめんどくさいやつだー…。関わりたくない。
でも既においしそうな匂いがしている。

「…食べ物で釣られたりしないぞ」
「ああ、わかった。みょうじは夕飯はいらないのか」

何と姑息な!仕方ない…付き合ってやろう。
冷蔵庫からチビチビ飲んでいる梅酒の瓶を取り出して、氷と一緒にグラスに入れ、一口だけ舐めてから夕飯の手伝いをする。
唐沢くんが初めて料理を作ってくれた時よりも料理の腕前が上がっている。最近は私に料理を教えてくれるのもあるからかもしれない。教える側に回ると覚えるって言うし。

「ほんと、唐沢くんは主夫になるべきだよ」
「ならない」

私なりの褒め言葉は今の唐沢くんには微塵も通じないらしい。これは簡単には機嫌直らないな…。
テーブルにちゃちゃと運んで、二人テーブルに揃ったところで、唐沢くんは事の発端を話し始めた。

「この間、先輩の家で飲みだったんだけど、」
「待て待て、私声かけてもらってない!」

最初から脱線。

「男だけだとゲスいから誘えない」

遠い目をする唐沢くんには悪いけど、男に生まれなかったことが悔やまれる。
飲めるときに飲みたい私からすれば、酒の席にハブられるのは血涙モノだ。ゲスさくらい別にどうってことないのに…。

「先輩にビールをかなり強く勧められて、嫌だったけど次の日の授業遅かったし、付き合いで我慢して飲んだんだ。そこに何でか彼女が来たところまでは覚えてる…」
「なるほど、起きたら彼女になってたわけか」
「大体そんな感じ…」

周りを懐柔したのか。やるな、後輩ちゃん。それが許されるかって言ったら、当然アウトだけどな。

「でも記憶ないなら付き合わなくてもよくね?」
「………まあ、そうなんだけど」

言葉を濁して、私のグラスに手を伸ばして、一気に飲んだ。私の梅酒ロックを。

「ちょっと待て!吐くぞ!」
「一週間くらいの記憶消し飛ぶなら泥酔してもいい…」

あまりの重症度に、何となく察しがついてしまった。

「唐沢くん…まさかとは思うけど、」

唐沢くんの手が続きを言うのを拒んだ。
つまりそういうことだ。記憶がない間に後輩ちゃんとやらかした。もしくはそう言い張られているのだろう。

「絶対ないと思うけど、記憶がないんだから弁明しようがない…」
「…それで何やかんやあって付き合い始めた、と」

無言で頷く唐沢くん。
多分何やかんやと言うよりも、脅されてるんだろう。

「…ま、まあ、適当に付き合って適当に別れたら?」
「早く飽きてくれることを祈るばかりだよ…」

そう嘆いて唐沢くんは空になった皿をどけて、テーブルに突っ伏した。

「嘘でも『彼女いる』とか言っとけばよかったな」
「それじゃあみょうじに迷惑がかかるだろ…?」

まあ確かに私もよく「付き合ってるの?」とは訊かれるので、言わんとしていることはよく分かる。何か申し訳なくなるんだよな…。

「何別に私と唐沢くんの仲だ、気にすんな。って、もう今からだと遅いか…」

唐沢くんは無言だ。
面倒事が始まる前に食器を片付けて、代わりに水を持ってくる。

「もーそんな気にすんなって。向こうも強行手段なんだし、いっそこっちもヤるだけヤって捨てれば?」

さすがに自分でも酷い発言だと思ったし、唐沢くんもそう思ったらしい。気持ち悪いんだろう、苦しげな表情で睨まれた。

「今の…絶対、外で言うなよ…!」
「言わないよ…さすがに…」

そんなこといろんな人の前で言う先輩とかゲスすぎるだろうよ…。

「今のは反省してる…反省してるから、唐沢くんも水飲んでくれ」

どういう理屈だ、と思うけど唐沢くんは大人しく水を飲んでくれた。

「もっと飲め。最終的には吐いたっていいから、とにかく水飲め」

案の定嘔吐して、息も絶え絶えに寝た唐沢くんの寝顔を眺めつつ、一体後輩ちゃんは唐沢くんのどこに執着したのだろう、と考えた。
部活ではなかなか頑張っているし、顔も部内ではかっこいい部類に入る方だろう、多分。あとは優しいくらいか。でも無理矢理にでも手に入れたい要素あるか?ないだろ。謎だ。


←archive

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -