最近美味しさが分かるようになってきた赤ワインを飲んでいると、何故か人の家で勝手に風呂に入ってさっぱりした唐沢くんに物凄く今更なことを訊かれた。
「みょうじが飲めないお酒って何かある?」
「飲めない酒ー?んー、最近ワインも飲めるようになっちゃったしな。ハブとかスズメバチとか入ってる変わり種酒と、ロシアの度数高すぎな酒じゃなきゃ飲めるんじゃね?」
我ながら雑な返しだったが、唐沢くんも想定済みらしく至って普通の表情だ。
「最近気付いたんだけど、俺、ビール飲むと記憶がなくなるらしい…」
わりと早い段階で気付いていたが、唐沢くんはとにかくビールは駄目だ。「美味しさが分からない…」と嘆くところから始まり、吐くし、記憶は飛ぶしで、大変めんどくさい。
「そんなぽんぽん簡単に記憶を飛ばすな!」と言いたい。と言うかもう既に何度か言った。
私は記憶を飛ばす程飲んだことないから、ちょっとやってみたくもある。
「私もそこそこ飲んだところで酔いたいぜー」
そしたら、浴びるようには飲めなくなるけど。
グラスのワインを飲み干してもう一杯注ぐ。まだまだいける。
「ところで、俺が風呂入ってる間にかなり飲んでない?」
「…気のせいだろー」
そっぽ向いてワインボトルを隠す。ごめん、そろそろ一本空ける。
「外ではあまりワイン飲まないでくれ」
「何でー?」
「本当に自覚ないんだな…」
私の前に座って麦茶を飲み始めた唐沢くんが続きを言うのを待ってみる。何も来ない。凝視してみる。風呂上がりだからか、頬に赤みがあって、髪の毛も湿気っている。
「唐沢くん…君、髪オールバックにすると意外と男前だなー」
ぶっ!と唐沢くんが麦茶を吹いた。それはもう見事に吹いた。そこら辺が麦茶で濡れた。
「あーあー」
唐沢くんが濡れたところを拭いているのを、完全に他人事で眺めていた。私の部屋だけど気にしない。
「みょうじが笑わせるから…」
「褒めたのにー」
ぶーぶー文句を言っていたら、呆れ顔の唐沢くんに拭くのに使ったタオルを顔面に投げつけられた。
「酔っ払いめ」
「酔ってないって」
何を根拠に「酔ってる」と言われているのか、私にはさっぱり分からなかった。