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うわばみの恋人

脇腹を何かでごりごりと揺すられて目が覚めた。

「おはよう、みょうじ」
「何だよ…それが泊めてやった人に対する仕打ちかよ…」

珍しく私より早く起きたかと思えば、人の脇腹の上に足を乗せ、有無を言わさず起こしにかかる暴挙。遂に唐沢くんも反抗期か。
さすがに段々と寒くなってきたこの季節は床での雑魚寝はますます体が痛む一方だ。
昨日の試合で毎度のように負けていた大学に遂に勝ち、歓喜の祝杯を挙げた。それはもう嬉しかったから、私も普通にはしゃいで、久しぶりに嘔吐した唐沢くんを持ち帰るはめになった。
本当は嫌だったんだけれど、泥酔モードの唐沢くんが「泊まる」の一点張りだったので、仕方なく泊めたらこの仕打ちである。
全くもって理不尽極まりない。

「それは感謝するけど、この部屋はどういうことだ」
「………いや、だから泊めたくないって言ったんだけど」

昨晩、自分の寝床を作るために適当に端に寄せた教科書やプリント、脱ぎ散らかした服、そしてコンビニ弁当のごみの山。ローテーブルの上に並ぶビールやチューハイの空き缶。
…どこからどう見ても、汚い。
正直、最近唐沢くんが泥酔しなくて、うちに泊まらなかったから片付けなくてもいいやって思っていた節はある。油断していた。

「その抱いているペットボトルは…?」
「…えーと……恋人?」

抱き枕のようにして抱いて寝ていた空の4Lペットボトルを冷たい目で見る唐沢くんはまだ知らない。このペットボトルがまだ数本、流しの下に隠されている事を…。
唐沢くんはため息を吐いて、まるで我が家のように洗濯機の上の棚から新しいバスタオルを出して、私に投げてよこした。
しかも当の唐沢くんは家主である私より先にシャワーを浴びているようだ。髪の毛がかき上げたままになって落ちてこない辺り、半乾きなのだろう。

「ここは唐沢くんちじゃねーんだぞ!」
「勿論。俺はこんなごみ部屋には住まない」

私の家なのに唐沢くんに風呂場へと追い払われたので、大人しくシャワーを浴びた。
風呂から出ると、唐沢くんが甲斐甲斐しく片付けなんて事をしてくれていた。ありがたや。

「一家に一台唐沢くんが必要だ!」
「馬鹿な事を言ってないで、いい加減自炊の一つでも覚えたらどうですか?」

あえての敬語に、刺さるような視線。精神的に痛い。

「出来る!出来るし!」
「得意料理は?」
「冷奴!」

額に手刀が落ちてくる。物理的にも痛い。

「みょうじ…乾きものと酒しか飲み食いしてないね…」
「冷奴も食べるから…」

恐らく唐沢くんは見たのだろう、この家の冷蔵庫の中身を。自慢じゃないが、今の冷蔵庫の中は水と炭酸水と酒しかない。
食べ物もスルメイカや柿ピーに缶詰めと、おつまみがほとんどだ。

「あと、この大きいペットボトルの焼酎並べるのだけは絶対にやめてくれ…」

流しの下もきっちりバレたらしい。母か。君は私の母なのか。

「だって、安くてがぶがぶ飲めるんだぜ!安い!多い!これ重要!」

唐沢くんが頭を抱えている。
仕方ないのだろ、学生なんだから。安くて量を求めるのは学生の性なのだ。安さだけならホワイトリカーもあるな…なんて考えているくらいには安くたくさん飲みたい。

「唐沢くん…最近私は考えるんだ…」
「…何を?」

聞く前から呆れ顔で見下ろしてくる唐沢くんに、私は真剣な表情で答えた。

「酒に溺れて死にたい」

「駄目だこいつ」と言いたげな表情で目を閉じ、顔を上げた唐沢くんの表情は大変おもしろかったが、大変傷ついた。傷ついたからな!


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