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うわばみとワイン1

じりじりと日差しが照りつけ、部員も私もこんがり焼けた。
大学生の長い間夏休みは、ラグビー部にとっては絶好の練習期間だ。八月の終わりから始まる大会に向けての練習や練習試合がメインになり、季節柄もあって、マネージャー業もなかなかハードになってきた。
一年生も大分体が作られてきて、今回は厳しくても春の大会にはレギュラー入りする人が出るだろうと予想出来た。マネージャーとしては部員の成長は楽しみだ。
しかしマネージャーではなく、みょうじなまえとして、この季節にはもっと楽しい事がある。

「えーい、乾杯!」
「かんぱーい…」

まずは一杯ぐびぐび飲み干す。
たまらん!夏、ビール、たまらん!
同じテーブルに座った男共が戦々恐々としているのは、私が言うことじゃないが、今の私は『一緒に飲んだら潰される』と悪名高いワクっぷりを展開、陰でのあだ名が『うわばみ』だからだろう。そんな奴と同席なんて普通嫌だ。
さすがに私だって誰彼構わず酔い潰しているわけじゃない。多分。一応。気付いたら潰れているパターンはともかく、わざと潰すのは唐沢くんに酒を無理強いする人くらいだ。
唐沢くんは私の前でウーロン茶を飲んでいる。最初はいいんだ。この部には酔うと人に酒を飲ませたがる奴が何人かいるから、そいつらが唐沢くんに絡まれなければ任務遂行出来る。
大体失敗するときは私が長い間席を離れた時だから、今日みたいなさほど人数の多くないときはそこまで問題ない。

「ほら、食べろ食べろー」
「姐さんあざっす!」

届いた皿を回せば『姐さん』呼ばわりされる。ちなみに唐沢くんを筆頭に、同期生は皆舎弟らしい。誰だ、そんなこと言い出した奴。ヤバい人みたいじゃないか。
二杯目のビール…というか唐沢くんの分のビールも飲み干す。

「おー、みょうじ、今日もいい飲みっぷり!」
「やっぱ夏はビールですよ!」

隣のテーブルの先輩に声をかけられて、空のジョッキを掲げた。
大体最後はこの先輩とサシ飲みになる。
向こうがどう思っているかは知らないが、私はこの先輩が結構好きだ。最後まで一緒に酒が飲めるから。

「先輩はワインですか?」
「こっちチーズ頼んだからさー。チーズっつったらワインっしょ!」

ワインは実はほとんど飲んだことがない。前飲んだ時は渋くて飲めたもんじゃなかったから、それから手をつけていない。

「おいしいですか?」
「飲む?」
「おー、あざす!」

先輩が口をつけていないところから一口もらう。
照明のせいで赤ワインのはずが、黒色の液体に見える。見るからに渋そうだったが渋くない。というか甘い。

「甘いですね」
「こいつカッコつけでワイン飲んでるだけだから。甘口、甘口」
「うるせーなー。ワインはワインだろ」

他の先輩に煽られてむすっとしている先輩にワインを返して、私も同じものを頼んだ。
どうにも酸っぱいものと渋い酒は苦手だったが、この甘いワインはおいしい。
それからも何種類かワインを飲んでみた。渋いのはやっぱり渋いようだ。

「みょうじさん?」
「はいー?」

目の前に座っていた唐沢くんが怪訝そうに私の名前を呼んだ。

「ちょっと酔ってるね」
「…私?」
「いつもより顔が赤い」

言われて手を頬に当てる。ちょっと熱い。

「んー、何でだー?」
「いろんな種類飲んだから…って訳じゃなさそうだし…」

自慢じゃないがちゃんぽんならいつもやってる。吐いたこともない。なら余計に何でだ?
…まあいいや。
どっちにしろこれでお開きになったし、唐沢くんは酔わずに帰せる。問題はない。

「俺、みょうじさんを家に送ってから帰りますね」
「おー、唐沢、みょうじお疲れー」
「お疲れさまでした」

そんな送られる程危険な夜道でもないし、普段なら送ってくれるなんて事ないのに珍しい。

「どんな気紛れだーい?」
「自覚ないのか…」

付かず離れずの距離で歩く唐沢くんは苦笑して私を見た。

「酔ってるよ、みょうじさんにしては」
「機嫌はいいけど、別にふらついてもないんだけどなー」
「いいから送られておきなさい」
「うーす」

夏の生ぬるい夜風が頬には少し涼しかったのは、やっぱり酔ってるのかもしれない。
気付けないのは恐ろしい。


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