レッドと???

記憶を探る限り、あれほどまでに無欲な人間を見たのは最初で最後だったと思う。
信じられないくらいにあの子は何も望まず、ただ笑っていた。なぜ笑えるんだろう。普通なら恨んだっておかしくないはずなのに、どうして幸せだなんて言えたのだろう。そう考えたらとてつもなく恐ろしい存在のように思えてきて、僕は目を逸らした。

ああ、だから見失ってしまったんだ。気付けるのは僕だけだったのに、僕が目を背けてしまったからあの子は文字通り『消えた』。認識されない存在なんてないも同じだから。
ごめん、僕のせいだ、ごめん。
もう何もかも遅いけどごめん。
謝っても無駄だということはとうの昔に理解している、ただそれでも最後まで笑って何も言わなかったあの子のことを思うと言わずにはいられない。僕は馬鹿だ。失ってから気付く大馬鹿者。今もまだあの子の笑顔が離れず、激しい後悔の念に囚われる。

「ねえねえ、私のこと嫌ってるでしょ!」
「別に。気味が悪いと思ってるだけ」
「充分酷いよ……本人を前にして堂々とそんなこと言うなんて、神経疑っちゃうな〜」
「今更じゃないか」
「気味が悪いとは言われたことない…レッド君意外と容赦ないね……」

ぶつぶつと背後で文句を言い続ける少女を一瞥する。別に嫌ってるんじゃない。ただなんとなく腑に落ちないだけだ。そう、それだけのこと。この女の子を否定してるわけじゃない、そのはずなのに。どうにもすっきりしないので溜息をつく。ダメだしっかりしないと。
酸素を肺に注ぎ込み深く深呼吸を一回、二回。なるべく何も考えないようにと頭をからっぽにして一歩、雪を踏みしめた。

「あれ?どこ行くの?」
「……」
「無視しないでよー」
「……ちょっとした用事。大したことじゃないから――――」
「ついていく!」
「……そう。好きにすれば」
「言われなくてもそうするよ」

立ち上がってにこり、その微笑みを見た瞬間、唐突にくらりと眩暈がした。
ああまたか。
目の前でにこにこ笑うその姿に重なる映像を、違う、違うと必死に否定する。まるで枠をはめたかのように繰り返されるそれは僕が望んで見ているわけじゃないのに。幾度となくこの現象に襲われる理由は許されていないからなのだろうか。
きっとあの子は僕を憎んでいて、だからこそ忘れるなという警告の意を込めた罰。自分でそう結論付けたくせに、なぜだか無性に泣きたくなった。

「見つけてくれなかった、許せなかったのは自分自身なんだ、ごめん」
「そうして悲観的に見せかけた自己保守へと沈んでいるの?そうすればあなたの精神は保たれるものねでも許せないのだけどそう今は、君もなりかけているんだね。可哀想に、やさしい人」
「航海ばかりだよ。ほんとうに遅すぎたんだ」
「いずれは許してあげるから、早くこっちに来ればいい!」

未だノイズは鳴り止まないだけが実感的に心地よかったのだ、少なくとも今は。


罪と罰
懺悔する少年に、誰も興味は抱かない



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