01号室の場合
「おら!!起きろ!迎えが来てんぞこんにゃろー!!」
ドンドンと扉が叩かれる。
そして、その衝撃で天井がミシミシとなっている。
うん、朝だ。
「やあ、おはよう管理人さん」
「おはようじゃねぇよ!!同僚を待たせるんじゃねぇよダメリーマン!!!」
「ああ、リザ、おはよう」
「おはようございます」
私の朝は、彼の怒鳴り声と部屋のミシミシという悲鳴で始まる。
いや、始まるというのは些か語弊があるか。
実際には、その2時間前には起き、身なりを調え、この6畳1間には相応しくないコーヒーメーカーからの芳しい香とトーストの焼ける香ばしい匂いの中で経済新聞にニューヨーク・タイムズ、学会紙、時間があれば自分がインタビューを受けた雑誌をチェックしている。
ただ、どうも彼の声を聞かなければ仕事をやる気が起きない。
と、いうわけで、私の出勤時間はやや遅めである。
「やっと起きたか!このウスノロ!!!」
「おいおい、それはないだろう」
「お前なんてウスノロで十分だ!!だめだめロイのくせに!!!」
「エドワード、きみねぇ……」
毎朝毎朝、この暴言が私の活力だ。
以前、そう言ったら、同僚(実際は違うのだが、まあエドワードにはそう説明している)のリザの視線がさらに冷たいものになった。
嘘ではないのだから仕方がないだろう。
「では行ってくるよ」
「おう!いってらっしゃい!!」
ああ、今日もいい天気だ。
「社長、まだエドワード君に本当の事をおっしゃっていないのですか」
角を曲がり、エドワードの視界から完全に私達が消えると、それを見計らったかのようにリムジンが横付けされた。
さっきまで私の横にならんでいたリザは、今は私の一歩後ろを歩いている。
「ええ!社長、まだ大将に言ってないんスか!!」
リムジンに乗り込み、簡単に今日のスケジュールをチェックする。
「ああ、そのほうがおもしろいじゃないか」
01号室のマスタングさんは、大手メーカーの社員さん。
毎朝、クールビューティな同僚に迎えにきてもらわないと起きられないおねぼうさん。
でもね、本当は。