澄んだ空気がひんやりと頬を掠める。 開いたままの窓からは外を流れる風が入ってき て。 部屋の中ではナツとハッピーが追いかけっこをしていた。 バタバタと動く影の後には物が落ちたり倒れたり する音が続いて、埃が舞う。 そんな様子を眺めながらルーシィはぼんやりとし ていた。 thankful もしも―――家出をしていなかったら。 ハルジオンへ立ち寄っていなければ、妖精の尻尾 に憧れていなかったら。 ナツが、イグニールを探していなければ。 ドラゴンが姿を消したりしていなければ―――出逢うこともなかったのだろう、なんて。 そんな『もしも』がふと脳裏を過って、想像して みようと思い浮かべてみる。 しかしながら、何も浮かんではこなくて。 例えばなど想像できない程に今が当たり前になっ ていた。 そのことがどこか擽ったくて、温かくて。 目の前の光景すら微笑ましいように感じる。 そんなことを思っていると、がしゃーん。ぱりー ん。 突然、大きな音が室内に響いた。 少し離れた場所にいた彼らはゆっくりとルーシィの方へ顔を向けると真っ青になりながらも笑顔を模る。 どうしたらそんな音が出るのか。 何をしたらこんな状況が出来上がるのか。 引き攣った頬が小さく痙攣して、吸い込んだ息に喉がひゅ、と鳴った。 「もお!!!なんでこんなに壊してばっかりなのよっ!!?」 「な、何か壊したっけ?」 「ルーシィが帰れって言いながら出してくれたカップみっつと文句言いながら置いてくれたクッキーのお皿いちまい」 「ばっ……ハッピー!」 「しまったって顔すんな!見ればわかるでしょうがっ!!」 「わ、悪ぃ」 「―――っ…もういいから、帰ってったら」 悪気のない態度に苛々して、呆れて声を張って、 そうして諦めるように外を指す。 瞬間、揺らいだナツの瞳には気付かずに。 ルーシィはひとつ、ふたつ、大きな破片を拾っては袋へ片付け始めた。 「………オレが、やる」 散らばった破片へ伸ばすルーシィの手首を掴んで。 そう言うと、ナツは割れて散らばった破片を集め出す。 「ごめん」と小さく呟いた声は落ち込んでいるよ うで。 数秒前との態度の差にルーシィは不思議そうに首を傾げた。 「ルーシィに嫌われちゃうって思ったんだよ」 ハッピーの説明に「なんだ」と納得しかけて、はたとルーシィは動きを止める。 そして、仔猫の目線に合わせるようにしゃがむと 「可愛いとこあるよね、ナツも」なんて、無邪気に笑っているその頬を勢いよく引っ張った。 「あんたも一緒に騒いでたでしょ?」 「あ、あい!」 慌ててナツの手伝いに走るハッピーに溜息ひとつ。 せっせと破片を集めるふたりの姿にくすりと笑みが漏れる。 「まったくもう、子供みたいなんだから!」 呆れた風を装って、声だけで怒っていても赦した心は見透かされて。 嬉しそうに顔を上げたナツにつられて唇が緩んだ。 自分以外の誰かと共に過ごす時間は、慣れてしまうと当たり前に感じてしまって。 つい感情的になって、疲れてしまうこともあるけれど。 ふとした瞬間に、かけがえのない大切な宝物であることを思い出させてくれる。 どうしようもなく止め処なく溺れるように仲間を 愛して。 ずっとずっと探していた居場所を見付けた気がした。 ここにいたいよ いればいいって、嬉しかったんだ *********** 鏡花水月のゆんさんより、2周年記念フリー小説いただいてまいりました! …かわいい! 私には文才など皆無なのでゆんさんが羨ましいです…!かわいらしいなつるちゃんっ 2周年おめでとうございますー! 素敵なフリー小説ありがとうございました! |