宝物 | ナノ




君の全ては僕のもの





「あ、あのよ、ルーシィ。ちょっといいか?」

いつもの様にギルドのカウンター席で本を読んでいたら、不意に横からグレイが話しかけてきた

「なに?」

「ちょっとな…」

こっちが促す様に聞いても、グレイは言いにくいのか、なかなか言葉を発しない

それどころか、グレイの頬はうっすらと赤く染まっており、思わずドキリとする

だが、グレイはもう、ルーシィの親友であるジュビアと恋仲なので、変な勘違いはしない

けれど、確実にグレイが言いたいことはジュビア関係のことだと悟る

そういえば…
昨日ジュビアがグレイと喧嘩した、って言ってたっけ

昨夜、普段はなかなか素直になってくれない彼女が、突然家に来て、散々愚痴(という名のノロケ)を聞かされたのを思い出して、顔がひきつる

ほとんど話は、右から左へと流れていったけど、グレイが他の女の子と楽しそうに喋っていて思わず喧嘩になった、ということは何十回も聞かされたのでよく覚えている

大方、グレイの言いたいこともそのことだろう

「あのよ、ちょっと耳貸してくんねぇか?」

親友のためにも、はやく仲直りして欲しいルーシィは、素直にグレイに顔を近づける

グレイは誰にも聞かれないよう、用心深く周りを見渡してから話始めた

「昨日、ジュビアと一緒に出掛けてたんだ。そしたらいきなりあいつ、怒って帰っちゃってさ。なんか知らねぇ?」

案の定、相談事はジュビアについてだったが、この色男は意外と鈍いらしい

しょうがないから、グレイに理由を教えてあげようと、顔を離したとき、視界の隅に鬼の形相で睨んでいるジュビアが見えた

ヤバイ、と思った時には既に時遅し

彼女はもうこちらに向かってきている

「おい、ルーシィ?」

いきなり、飛び跳ねる様にして離れたルーシィを、グレイは怪訝そうな顔で見る

けれど、今ルーシィにはグレイに構っている暇は無いのだ

どうにかして、ジュビアに言い訳を考えなくっちゃっ!

もうジュビアは、そこまで来ている

「おい、ルーシィ?大……」

「グレイ様!?ルーシィとさっきからなにコソコソ話してるんですか!?」

「おわっ!?ジュ、ジュビア!?」

冷や汗をかき、震えて怯えていたルーシィに声をかけようとしたグレイの台詞とジュビアの声が重なった

後ろから怒涛の勢いで現れたジュビアは、どうやらグレイにしか興味がないらしい

対象から免れたルーシィは安堵し、読みかけの本を再び開いた

視界の隅でグレイが助けを求める視線を送っていたが、見なかった振りをする

ごめんね、グレイ。
私まだ死にたくないんだ。

一生届かぬであろう謝罪を心の中でし、本へと意識を向けた

だが、

「あれ?」

置いてあった筈の本が無いのだ。どこにも。

おかしい、と思って、カウンターの下を除きこむが、やはりない

もう!
あの本すっごくおもしろかったのに!

本がいきなり消えてしまったことに酷く憤慨し、ルーシィはため息を吐いた



*******************



それと同時に頭にかかる熱と重み

ギルドのなかで、こんなことをする人間は1人しかいない

「ナツ!なにすんのよ!重いじゃない!」

なぜか、すぐ返ってくると思われた返事はなく、静寂だけが訪れる

顔を見ようとするが、頭に乗っかられてるため、それもできない

ただわかることは1つだけ

ナツが、おかしい。

「ナツ?」

「…ルーシィ、ちょっと来い」

「えぇ!?ちょっと待ってよ!」

今度は返事が返ってくるも、いきなり左手首を捕まれ、引き摺られる

捕まれた左手は、いつもより、熱かった

「ちょっと、どこ行くの?」

「いいから、来いって」

ナツの自分勝手な行動は今に始まったことではない

でも、行き先も教えてくれないとなると、不安になる

たけど、ここでルーシィが何か言っても、無意味なのはわかってるので、大人しくついていく

どうやらナツが向かっているのは、ギルドの2階らしい

2階に行くのは良いのだけど、2人の様子を見たギルドの連中が、生暖かい目で見てくるのには、耐えられなかった

レビィに至っては、頑張れ、と口パクでメッセージをくれた

なにを、かは聞かない方が身のためだと思い、苦笑いで返しておいた

階段を上って、たどり着いた2階には、珍しく誰もいなかった

目的の2階に着いたのにも関わらず、ナツは止まろうとしない

2人の間には、ただ、静寂だけがあった

ナツ、どうしたの?
ナツ、なにか話してよ…
ナツ、ナツ、ナツ…
私、怖いよ…
ナツが笑ってくれないのが、怖いよ…

言葉にならない想いが、ルーシィの胸のなかで渦巻く

なにも話してくれないナツが、ルーシィには辛かった



*********



「ルーシィ?」

いつのまにか、ルーシィの足は歩くのをやめていた

それに従って、ナツの足も止まり、ルーシィに振り返るが、ルーシィは俯いていてその表情は見えない

それにナツはため息を吐き、ルーシィの肩が震えた

私、ナツに呆られた…?

もし、ナツに嫌われたらと思うと勝手に涙が溢れでてくる

それを唇を噛み締めて必死に食い止める

泣いちゃ、ダメ
ナツには、迷惑かけたくないの…

必死に自分に言い聞かせようとしても、涙は止まらない

なにも反応しないルーシィに、痺れを切らしたナツが、繋がれていた左手首を思いっきり引っ張った

「…!?」

唇を噛み締めていたお陰で、悲鳴は出なかったが、代わりに涙が零れ落ちた

ルーシィは今、暖かくて、心地よいものにくるまれていた

背中に回された、というより、のしかかったといった方がよい、乱暴な抱き方

それでも、ナツの手は優しかった

「…なに、グレイなんかに顔近づけてんだよ」

「…へ?」

耳元で聞こえた、予想していなかった言葉に目が丸くなる

もしかしてナツ、嫉妬してるの…?

思わず顔が熱くなるが、ルーシィの記憶では、自分たちはそんな関係でも、そんな雰囲気になったことも、ない

ルーシィ自身はナツのことを好いていたが、ナツにはまだ恋愛なんてはやい、と1人で勝手に押し込めていた気持ちだった

でも、思っていた以上にナツはちゃんと"男の人"で

知らず知らず上がる口角にも悪い気はしない

「なに、泣いてんのに笑ってんだよ。変な奴だな」

顔を除きこむ様にして見てきたナツの顔は、不機嫌で。
それがまた、おかしくて。

「…たく、これからは、オレ以外の奴は近づけんなよ」

自分勝手で、横暴で、無茶苦茶な、ナツのお願い

それさえも、ルーシィには嬉しかった

「うん。」

「約束、だからな」

「約束、ね」

2人で、至近距離で笑い合う

ねぇ、ナツ。
まだ、ナツからちゃんと言葉としてはなにも受け取ってないけど、いつかはちゃんと、言葉にしてくれるって、信じてるからね?

近づいてくるナツの顔に、そっと目を閉じる
そして、2つの熱が重なった

離れて、また重なろうとした時、

「でぇきてぇるぅぅぅぅ!」

運悪く、盗み見しにきたハッピーにぶち壊された挙げ句、ギルドの皆にからかわれたのは言うまでもない



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月菜様よりキリリクナツルいただきました!!
すばらしい作品ありがとうございました!!!