薄桜鬼






叶えたい志があった。


試衛館で共に励んだあの頃から、いまや近藤さんと皆に慕われているかっちゃんの下で二人してあの人のお役に立ちたいって語ってた。京へ行くと決めた時も女だからと一時は反対されたが、尊敬に値する近藤さんの役に立ちたいという思いは変わることはなかったし貴方から離れるなんて想像もできなかった。いま思えば、あの反対も女だからという素晴らしく偏見にまみれた理由ではなく私を不器用にも心配してのことだったんだろう(あのときはあまりにもわかりにく過ぎでわからなかったけれど)

近藤さんの志は私にとっての志でもある、試衛館から壬生浪士組そして新撰組へ、変化が至極当たり前のように押し寄せてくるなかで近藤さんの根本は変わることなく、こう言うと偉そうだが追随するに値した。それは貴方にも言えることで近藤さんを支える貴方の下につくのはとても誇らしかった。そんな想いを抱えながら自分の仕事をこなし新撰組の一員として働くのは気持ちがよく、富んだ暮らしでなくともそれだけで満足だった。

これからもそうして生きてゆくのだと信じてやまなかった。いやそれを切々と願っていたんだ、土方さん

ひじかた、さん。



殺伐とした空気のなか、部下の平隊士がぐわぁッ!と悲鳴を上げたのと、ザシュッ!と耳にして心地良いとはとても言えない音がしたのは同時だった。
それが一瞬の隙を呼んだ。ぎりぎりと刀同士の押し合いを目前の浪人としていたというのに、音がした右後方に横目を向けたのがその日最大の間違いだと気づくのが遅すぎた。気づいたとしてもそれは後の祭りだったのだろうけど。
己の体から鮮やかな赤が飛び出す。敵が目の先にいたのによそ見をするなんて未熟だった、としかいいようがないな…血がほとばしるなかで呑気にそう考えた。

そう考えながらも斬られる途中、当然目にするのは身体に刃を食い込ませる浪人の顔で、しめたとでも思っているのだろう男のニヤリとした表情に腹が立った。なぜ私はこんなやつに斬られねばならないのか、油断した私が悪いとわかっていたが気に障ってしょうがない。

刀は引かれ倒れるだろう、というところで右足に力を入れる。力を入れた拍子に腹にも力が入ってぼたぼたとこぼれ落ちてくそれは浅葱色の羽織と袴を汚した。草履と血を含んだ地面がじゃっと音をたてて擦れる。

銀色が煌めいた刹那、目の前の浪人は驚愕の色を浮かべて倒れた。顔色と標的を変え左から襲ってきた刃を一歩大きく後退することで避ける。刀を握る手が下にさがったのと同時に腕もろとも斜めに斬り裂いた。

そのまま踏み倒し、その後ろにいる残り二名の浪士を薙ぎはらうと、刀から垂れる血を転がる死体の着物で拭う。

残党はもういない。ひゅーひゅーと自分の呼吸音が響く。斬られた隊士に駆け寄ったが彼はもうすでに事切れていた。
しゃがみこみ口元に指先を軽くのせ、九つほど数える。耳を口元に近づけるが音もしないことと息の流れがないのを確かめると膝の力がぬけた。まぬけにも不格好な正座の形になる、ああそういえば私斬られたんだっけか…左手を胸元に寄せれば生温かい感触。どうやら肩から腹近くまでばっさりやられたらしい。

「ごほっ、」

咳き込むと口のなかに鉄の味が広がる。まずい。いや口に広がるこの味も不味いんだが、この状況がまずい。浪人どもはいい、様子からして攘夷派の人間だった。
なにがまずいかと言えば私の身体がまずい、どこかしら内臓を傷つけたっぽい、息がひゅーひゅーと詰まった感じだし吸って吐くという人として当たり前のことをするたびに口いっぱいに液体が溜まる。…断じてよだれではない。



平行感覚も狂い始めたらしく、身体がどんどん斜めになってる気がした。それは気のせいではなく実際にそうなっているのだが。


うん、視界が揺れる。隊士はいいとしても血濡れた浪人と同じ場所で倒れるのはいやなものだ。そんなことを思っても、足に力が入らないし手は垂れ下がったままなのだからどうしようもなかった。

硬い地面に肩がつくと次に頭もつく、これといった痛みは感じなかった。もしかしたら痛すぎて痛いのかわからなくなっているのかもしれない。


誰かはやく見つけてくれないかな、いやでも見つかっても土方さんが怒鳴り散らしそうだ。その情景が浮かんで柔らかな笑みが生まれる。

それを最後に視界は閉じた。


「――なまえっ!!」
どこかから焦りが滲み出た、土方さんの声が聞こえた気がした。








新撰組隊士と浪人が斬り合いをしている、そんな知らせを山崎から受けたのはだいぶ日が上がった頃だった。京で人に紛れ込みながら情報収集をしていたとき、茶屋で女将が話していたのだそうだ。場所を聞けば、あいつが見回りしているところじゃねえかと頭が痛くなった。原田か永倉あたりの手のあいてるやつに様子を見て来いと言おうとしたが、妙な胸騒ぎがしてやめた。

「――ちょっと様子を見て来る」


副長自ら行くなんておかしいだろう、と思ったが考えが変わることはない。ちょうど縁側に座って千鶴にちょっかいを出しつつ饅頭を頬張る総司を見つけると一緒に来いと一声かけた。




「土方さん、土方さん、土方さーん聞いてますか?」
「…ああ」

「そんなに急がなくても彼女の腕っ節は僕より土方さんのほうが知ってるじゃないですか。浪人にやられるほどやわじゃない思いますけどー」

「…わかってる」

「じゃあなんでそんな怖い顔して―――」
「胸騒ぎがすんだよ、よくねえことが起きそうな」

真剣そのものの表情に総司もかたくなる。

「…急ぎ、ましょうか」
「ああ」



なにも起きてない大丈夫だ、そう思い胸騒ぎを誤魔化すもやっぱり湧き出す不安に駆け足になった。












そして土方の胸騒ぎは当たることとなる。



別れ際の出来事
(どうしようもない)
(胸騒ぎがした)







お題提供『ace






……土方さん?沖田さん?あれこれだれだ \(^^)/内臓って書いたけど内腑って書いた方がいいのか。私の解釈間違ってるかもしれないので誰か内腑って意味教えてほしい。詰め込みに詰め込んだらなんか最初のところいらない気がするどうしよう^^^きっと続く!←

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