第一話




「じゃあね、イレイン」

――待って、行かないで

「僕のことをどうか覚えていて」

――やだ、やだ!!

イレイン、僕は君を愛してる



「……」

意識が浮上し、少し寝すぎたせいでだるい頭を上げれば、私の頭を撫でていた手が離れ、頭上からくすくすと笑い声が降ってきた。

「イレイン、ぐっすり眠ってたね。おはよう」

 そういって青色の目を細めるこの少年は、私のマスター……アレン・ウォーカーである。
 彼は数秒私に何かを期待するような目を送り、しかし馬鹿馬鹿しいことをしていると思ったらしくマスターはぷっと噴き出した。

「……なんて、イレインが返事できるわけないか。」

 そう言ってマスターは私の頭をなでながら苦笑を浮かべる。
 私は狐だ。普通の狐は確かに喋ることはできない。
 まだ色々と秘密にしているために声を発することもできず、少しだけ残念に思いながらもぱた、と尾を振ってまた伏せる。

「まだ目的地までは――ああっ、こら、ティムキャンピー!
あんまり飛び回るなよ、こないだみたいに猫に喰われたらどうするんだ」

 マスターの近くを飛び回っていたティムがふらふらーっと町の方へ行こうとしたのを見てマスターが注意を促した。
 また顔を上げると頭上にティムが乗ってくる。

「え〜〜〜!?ネコに喰われちゃったの〜〜〜〜?よく助かったわねェ」

 馬車の中から道化が顔を出してそういうと、マスターは包み隠さず

「その猫のお墓から出てきたんです」

 と答えた。

「へ?」

 兎が道化を押しのけ、「英国には観光で?旅人さん」とマスターに尋ねる。
 マスターは微笑んで首を横に振った。

「いや、ちょっと挨拶に行くんです。エクソシストの本部へ」

 そう答えるマスターに一声鳴いてその通り、というようにしてみせた。




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