「じゃあね、イレイン」
――待って、行かないで
「僕のことをどうか覚えていて」
――やだ、やだ!!
「イレイン、僕は君を愛してる」
「……」
意識が浮上し、少し寝すぎたせいでだるい頭を上げれば、私の頭を撫でていた手が離れ、頭上からくすくすと笑い声が降ってきた。
「イレイン、ぐっすり眠ってたね。おはよう」
そういって青色の目を細めるこの少年は、私のマスター……アレン・ウォーカーである。
彼は数秒私に何かを期待するような目を送り、しかし馬鹿馬鹿しいことをしていると思ったらしくマスターはぷっと噴き出した。
「……なんて、イレインが返事できるわけないか。」
そう言ってマスターは私の頭をなでながら苦笑を浮かべる。
私は狐だ。普通の狐は確かに喋ることはできない。
まだ色々と秘密にしているために声を発することもできず、少しだけ残念に思いながらもぱた、と尾を振ってまた伏せる。
「まだ目的地までは――ああっ、こら、ティムキャンピー!
あんまり飛び回るなよ、こないだみたいに猫に喰われたらどうするんだ」
マスターの近くを飛び回っていたティムがふらふらーっと町の方へ行こうとしたのを見てマスターが注意を促した。
また顔を上げると頭上にティムが乗ってくる。
「え〜〜〜!?ネコに喰われちゃったの〜〜〜〜?よく助かったわねェ」
馬車の中から道化が顔を出してそういうと、マスターは包み隠さず
「その猫のお墓から出てきたんです」
と答えた。
「へ?」
兎が道化を押しのけ、「英国には観光で?旅人さん」とマスターに尋ねる。
マスターは微笑んで首を横に振った。
「いや、ちょっと挨拶に行くんです。エクソシストの本部へ」
そう答えるマスターに一声鳴いてその通り、というようにしてみせた。