“そういって笑っていた日々と、これから” 「あー! カガミまた玉ねぎ避けてるー! 食べ残したー!」 「うるせぇ居候」 「もー! 子供じゃないんだからそういうちまちましたことしないで収穫に感謝して食べなよ〜〜」 「じゃーお前がありがたく食えよ」 「まったくもー! これはもうあれだな! カガミの好物より先に、カガミが玉ねぎを美味しいって食べるようになるレシピの考案が先だな!」 「うっせうっせ。やれるもんならやってみろ」 ……なあ、そう言ってただろ。 今なら玉ねぎくらい、出されりゃ食ってやるよ。 「カガミ! 大事な、守りたいものがあるなら、死んじゃ駄目だ!」 ……なあ、俺を守るから死なねぇって言ったよな? 「殺しちゃ駄目! ムンドゥスだって、殺したら負けだから。それだけは、駄目! 俺が絶対止める!」 ……言ったよな? 「なあ……早く止めに来てくれよ……」 じゃないと、俺は。 お前を殺したあのいかれた野郎と、お前の代わりを名乗るあのガキと、その原因を作った奴ら全員道連れにして死んでやりそうなんだよ。 「……なあ、シラハセ」 それでもお前は、この世界に守る価値があるって笑うのか? 現実を直視できずに過去に記憶を飛ばせば、下らないことで笑ってた事しか思い出せない。ぶつかったこともあるし、喧嘩だって一度や二度じゃない。だけど、記憶の中ではいつだってへらへらと笑ってた。記憶の中の、と形容するしかない事実が刺さるだけ。 “まーねー、留置場から人が一人消えるくらい、俺ならちょちょいと、なんとでもできるよ?” 試すように笑ったような言葉は、聞こえたけれど響かなかった。 結局、何も変わらない。あの頃のまま。 “カガミならだいじょーぶ!” 「シラハセ……」 俺さ、お前が思ってるより弱いんだわ。 「カガミ、ハセオがいるから、悲しい?」 は? と声を漏らす。 感情のない瞳で、その小さなガキはこちらを見ていた。 「そしたらハセオ、いなくなるよ。ハセオがいなくなれば、全部わすれるよ」 「意味……分かって言ってんのか……??」 小さな頭は、こくりと頷いた。 「カガミ悲しいの、ハセオは嫌だから。カガミ悲しくなくなるなら、ハセオがしぬから、だいじょーぶだよ?」 そう言って、ふわりと、微笑んだようにすら見えた子供を、少しの躊躇いの後に抱き締めた。初めて感情らしいものを見せた少年の言葉を反芻する。 俺は、こんな子供に何を言わせた? 俺は、今何を願った? 俺は、手離したいのか? 俺は、こんなにも弱い人間だったのか? 俺は……………… そんな馬鹿な事すんなと、何故こいつに言えない? “カガミって、子供好きだよね” こんな時ですら、笑った顔のあいつがちらつく。 身体を離すと、小さく細いその姿が、やけにたよりなげに見えた。 |