※魔法少女まどかマギカパロ
※キャラ崩壊と捏造のオンパレード
※閲覧注意


「生きて欲しい人がいるんだ」


冷たいキスを思い返しながら、膝の上にのせた頭を撫でる。私はこの人が好きだ。だから、玄関のドアを開けて立ち尽くす彼の目を見た瞬間彼を壊すようなことが起きてしまったのもわかってしまった。何もかもなくした彼が唯一見つけた逃げ場所が私であったことも察しがついてしまった。泣き腫らした真っ赤な目にすがりつかれるまま私は私に突き刺さった状況を受け入れていた。抱きついて震える手が私の腰を締め付けて未発達の胸を男の頭が押し潰す。
何かから逃げるように怯えて焦る彼に押し倒されて愛情もへったくれもないまま抱かれてしまい私の初めてはおそろしくあっけなく愛する人に散らされた。無惨に破られたものの代わりに流れ出した血が足を汚していく。号泣しながら私に乱暴をした後意識を手放したあわれなる男に彼の着衣であるパーカーを被せてやり、寝息が落ち着くまで頭をずっと撫で続けて今静かな夜が我が家にようやく戻ってきたのである。他人の香りがする痩せ細った身体を暗い色のパーカーが覆い隠し、私の太ももに残る男の涙を私の手が拭う。家の近くにある踏切から、窓を叩くように高く無機質な音がこの部屋まで聴こえてくる。


その音を聴いていたら、いつのまにやら窓の内側に白い生き物の影が浮かび上がっている。
どうやって入ってきたのかなんてもう聞く必要もない。


「……君にとって間桐雁夜は友達かい?それとも恋人?」
「恋人じゃない、友達でもないなあ。てか見ればわかるでしょ。何歳離れてるよ。しいていうなら、知り合い?うん。とにかくその、今にも死んじゃいそうだからどうにかしてでも私、生きて欲しいの」


そう言いながら、彼を撫でる手を止めない。止めたら元々冷たいこの人の体温がもっと冷めてしまいそうで私はそれが怖い。


「私ね、間桐さんが幸せになるには何よりも生きることから始めないとって思ってるの。でもこの人、このままじゃきっと死んでしまう。だから奇跡が欲しい」


ここ近辺で女子学生にもっぱら噂の何でも願い事をひとつ叶えてくれる代わりに魔法少女になれだの言ってくる変態こと白いぬいぐるみ。見つけて、拾った者は全て魔法少女になり素敵な恋を見つけたり学校に行かなくてもよくなったりそんな奇跡が都市伝説として私のクラスでもノストラダムスと共に横行していた。笑い話としてたまたま親友に噂を聞いていた私は先日公園にて奴と初対面となり早速素質があるので魔法少女になれと言われたが特に叶えたい願いもなかったのでそのままごみ箱に放り込んだ……のだがなんと、このぬいぐるみは私の元へ何度でも戻ってきた。
一昨日。昨日。今。狙ったようなタイミングで。追い詰められている私と男をぬいぐるみ特有のつやつやとした目で見つめている。負けたな、と頭の隅で考えながら私はそのまま口を動かしていた。


「好きなの、間桐さんのこと。ちゃんと生きて自分の人生と向き合ってほしい。誰かのためにとかじゃなくて自分のために生きてほしい。それだけが間桐さんを間桐さんのお家から解放する」


叶えたい願いが出来た。何かを心から欲しいと思う程非凡な人生を送っていなかった私を間桐さんが駆り立てる。
間桐さんは昔のちょっとした知り合いで、たまに両親のいない私の家にやってきては他愛のない話をしてくれた。母も父もいない私を構う大人なんて彼以外私は知らない。私が心底守りたいと思う大人も彼以外いない。


私は間桐さんが好きだ。親愛でも恋愛でもその他の意味も含めて。だから生きて欲しい。生きていたら変わることがたくさんあると思う。間桐さんが命を捨てて関わった聖杯戦争も、間桐さんが捨てた未来も変わる間桐さんを受け入れて。どんな結末であろうとも変化を殺して無視して死んでいく今よりはいいとも思っている。


間桐さんはきっと怒るだろう。私は間桐さんに怒られたことがない。激しい感情を向けられたのも今宵が初めてだ。それも私ではなく間桐さんは私の目にうつる誰かもしくは間桐さん自身に向けたものだからまた何とも言えない。
私はこれで恨まれて、嫌われてもいい。間桐さんが生きていてくれるのなら。間桐さんが生きて桜ちゃんとやらと一緒にいてくれるのなら。とても酷い目にあっている女の子の逃げ道に彼はなれる人だから。私に出来ることが桜ちゃんとやらに出来ない人ではない。


ぬいぐるみの耳が浮く。アニメみたいな台詞が次々と吐かれる。それを吸った肺が膨張する。私の願いは光る宝石に変わる。薄暗い室内の中心に太陽によく似た明かりが灯る。私の掌にちょうど乗る大きさの卵型のものをぬいぐるみがソウルジェムと呼ぶ。
ソウルジェムにかざして見た私の手の爪に不思議な模様が刻まれていた。


「……名前ちゃん」


明日から君の生活は一変するだろう。ぬいぐるみのそんな言葉を聞いてから眠りについた数時間後、懐かしい声で私は目を覚ます。何度見ても慣れなかった真っ白な髪と悪い肌色はすっかりなくなって、ちょうど一年前の間桐さんがベッドに横たわる私の顔を見ている。健康的な黒髪と完全に消滅した顔左半分の硬直は私に新しい朝の到来を教え、昨晩起きたことが本当のことであるのを改めて実感させた。微笑みながら身体を起こす私に間桐さんはたどたどしく元に戻った、令呪も消えている、ここ一年の自分のことがあまりはっきりと思い出せない、全て夢のように思えるといったことを伝えてくるので私は頷いて今までのことは全部夢だったんですよと答えた。嘘をつく私に間桐さんはしばらく呆然とした後安心したように目を細めてよろよろと座り込む。ああそうか、夢だったんだ。良かった。
色んなことを呟く間桐さんの目から水滴が落ちる。降る雨に打たれる窓を滑るようなそれに私はさらなる決意を固める。


また桜ちゃんにも凛ちゃんにも会えるんだ。射し込む太陽を顔左半分いっぱいに浴びながら間桐さんが言う。毛布のなかで自分のソウルジェムを私は強く握り締めた。


守らないと。この人がもう壊れないように。幸せにしないと。想いが胸を貫く。


その日から私の生活はぬいぐるみの予言どおり一変した。
いくあてのない間桐さんと一緒に暮らし始め、間桐さんが元の仕事に復帰したかたわら魔法少女として生きるようになった私は願いを叶えた代わりに魔女とやらを倒さなくてはならなくなった。ソウルジェムは魔法を使うごとに濁り、魔女を倒してそれが落とすグリーフシードを手に入れなくてはその濁りを浄化出来ないそうで、もし完全に濁ってしまえば私は死んでしまう。私がしぶとく間桐さんと生きるためには魔法少女としての生活をこなしていかなくてはならないようになりしょうがなしに私も不思議な人生を辿り始める。病んだ人を誘き寄せるよう罠をはって子供の落書き、絵画の世界、深層心理をそのまま壁に貼りつけたような場所の奥の奥に我々の敵、魔女は住んでいる。魔女というとクソババアのイメージがあったがそれはまだ可愛い方で実際の魔女はどこまでも醜悪でグロテスクな存在であった。人形がそのまま腐ったようなのからやけに目玉のでかい虹色の魚など色んな形の魔女がこの世界にはいた。魔女のえげつない攻撃を受けても痣も何もかもすぐに元通りになる(ぬ
いぐるみ曰く魔法少女としての私の特性であるそうだ)おかげでちょっとしたことでは身体的にも精神的な意味でも驚くことがなくなった。


学校終わりの帰り道親友と別れ、グリーフシードに余裕がなければ魔女を探す。余裕があればすぐに家に帰り食事を作る。空いた時間で魔女を倒すための修練に励み、間桐さんが帰ってきたら何事もなかったような顔をしてご飯を一緒に食べる。そんな毎日。
二足のわらじをはいて二ヶ月なんとかこなせた自分に御褒美をあげたいものであるとぼやけばぬいぐるみが君は自分に甘いねといったことをあのつるんとした口調で言ってきたので窓から放り投げてやった。


「……随分と不思議なアクセサリーだな、学校で流行ってるの?」


ある日夕飯にカレーを煮込んでいる最中、帰ってきた間桐さんが私の宝物であるソウルジェムを人差し指と親指で挟みしげしげと眺めていた。テーブルの上に置きっぱなしにしていたのを私はすっかり忘れていたのだ。
まずいものを見られてしまったがここで動揺すれば妙に勘のいい彼が詮索してきかねないので極めて通常を貫く。


「そう。綺麗でしょ」
「うん。とても。これを記事にしたら売れてブームになりそうだ」
「売れない。絶対売れない」


全力で首をふる。彼のカメラに撮られたらこの世の終わりだ。想像もしたくない。
必死な私が随分と面白かったのかくすくすと間桐さんは笑う。


「寝る時も時々大事に握り締めてるよね」
「バレてたか」
「うん。だって俺すぐ隣にいるし。気づかないほうがおかしいよ」


間桐さんの指の間で私のソウルジェムが中身をたぷんと揺らした。内部におさまる明るい色の液体は彼の顔を反転させて、表面にぷかぷかと浮かべている。


「大事なものなのかい?」


その問いにもちろん答えはひとつしかない。火に煽られて小さな泡を吐き出す夕飯を焦げないようお玉でかき混ぜる。


「大事なものだよ」


それがなければ今頃どうなっていたか不安になるぐらい、私にとって大事なものである。名前ちゃんがものに執着するなんてすごいことだ。何も知らない間桐さんがまた笑う。


無事にカレーが完成して、お皿とスプーンを持ってテーブルへ向かうと相変わらずきらきら光る私のソウルジェム上部に青色のリボンが結ばれていた。


「皆持ってるものなら、落としてもすぐ名前ちゃんのだってわかるようにしないとね」


そんな間桐さんの持論をききながら私は吹き出す。本当に可愛いことをする人である。
確かにこれならば落とすこともないだろうし、なくしたとしても私も必死になって探すだろう。

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