そのいち


君が来る前から、君で妄想という名の夢小説を書いていた私は、本当に君に会うのを躊躇っていた。
でも耐えかねた私は、とうとうカイトを嫁に迎えたのだ。

カイトをインストールした直後、0と1がPCから飛び出て、人の形を作る。
まさか、本当に実体化するなんて!
胸が締め付けられる。本当に、本当に、私はカイトに会えるんだ!
ねぇ、私のカイトはどんなカイトなのかな…良い子だといいな、どこのカイトよりも、愛おしく愛らしいカイトであれ!
マスターの心臓の脈が波を形成する。
それを核として、ボーカル音声のデフォルト波、ディスプレイの光の波、HDの回転熱をあわせて、形を作る。
祈るような思いに応えて、だんだんとカイトが姿を表した。

うわぁ、カイトだ!カイトが目の前にいるっ!
様々な思いを秘めながら、じっと見つめていたら彼はこう言った。

「はじめましてマースター!今日からマスターに亀甲縛りをしてもらいますっ☆」
「……………え〜……」





―緊縛☆アイスプレイ―そのいち
はじめまして つ【縄】








「亀甲縛り…とな?」

ダメだ!こいつ完全アホの子属性だ!

「はいっ!亀の甲羅のように縛ってください!」

カイトはものっそい嬉しそうに言う。
しかも口調にはぁはぁと吐息が混じっている。
これは引く。完全に引く。
でもこれもカイトだ。しかも家に来たカイトだ。
マスターとしてこれから可愛がってあげなくてはならないのだ。
こんな早々に引いてしまってはいけない。耐えろ、耐えるんだ、私!
なんだかよくわからない念を押して、カイトと向き合う。

「…SMプレイのひとつの?」
「はいっ!」
「なんで?」
「そ、それは………」

カイトは私にそっと触れてくる。
“波”を見る、その手。
kimi.wavのごとく、儀式的なそれを実際にされて、私の体は強張った。

「…見えます。俺が今、ここに来る前から、それこそこのように触れる意味を付けて、“俺”を作っていたこと。実際にこうやって形になる前からマスターは俺を思っていてくれたんですね。ふふふ、俺のマスターは日常で周りから愛されているんですね。学校行ってるとき、友達にいじられて…その顔がとても、幸せそうですぅ…はぁはぁ…いいですね、俺もそうやってされたい、マスターがあの笑顔を向けて、周りを誘うように……俺もいじられていじられていじられて倒されたい…それこそそれ無しでは生きていけなくなるようなくらいに、縛られて、身動きできなくて、でもそれが快感で…っ!はぁはぁはぁはぁ、苦痛が快感…うふふ、素敵です!これは新たな美学です!」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「あぁっん!その目もか・い・か・んっ!☆」

こいつヤバいぞ。逝っちゃってるぞ。
病院…連れて行っても手遅れかもしれない。
どうする、俺、どうしたらいいっ!?
でも、これがうちの子なんだ。否が応でも、受け止めていかなくてはいけない現実だ。
くどいようだが、こうしてでも見据えなくてはならないのだ。
だって、私の波を核として形作られたカイトなんだから。
言いかえれば、これが自分では気づいてない自分なのかもしれないから。
なら、私も変わって、カイトもまともな子にしてあげよう!

「わかった、亀甲縛りしてあげる」
「―――っ!はぁはぁっ」
「その代わり、もっとまともな人格にn」
「ひゃいっ!マスター!ぜひ早く縛ってくださいっ!☆」
「……………最後まで聞けや、こらっ!」
「あぁんっ!マスター、もっとぉ!」

こうして、我が家に迎えた嫁をまともな人格に矯正する日々が始まった。
(あぁんっマスター!矯正だなんてっ)
(黙れ)

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