妖臨也×子静2 | ナノ











「臨也っ!」
「こんばんわ、シズちゃん」



普通の子供はこぞって家に帰る逢魔ヶ刻。
静緒だけは家を飛び出して家の傍の竹林へ駆け込む。
竹林へ入ってすぐの場所にある天然の腰掛岩。其処が静緒と臨也の待ち合わせ場所だった。


薄暗い中を確りした足取りで進み、丁度腰掛岩の上ボンヤリと紅い光りが浮かんでいる闇へ躊躇い無く静緒が飛びつくと優しい声が迎えてくれる。


臨也と出逢ってから静緒にとって闇は怖いだけのモノでは無くなった。
妖である臨也がまるで闇そのものの様な存在だったから。





妖達が闊歩する逢魔ヶ刻、静緒の前に現れた臨也は何よりも優しかった。
人間である筈なのに人間に迫害される静緒に家族とはまた違った安らぎを与えてくれる存在だった。



珍しい、生まれながらに黄金色の髪は外の国を知らない者からしては異形の象徴の様なもので、加えて人並みはずれた力を持った静緒は村人から迫害され続けた。
謂われない迫害を受ける悲しみ、家族に迷惑を掛けているという苦悩。それらは幼い静緒の心を蝕んでいき不確かな存在に縋る事さえいとわなかった。




―逢魔ヶ刻に一人で居ると、妖に連れていかれてしまうよ―



幼い子が親に言い聞かせられる台詞。
それを恐れるから子供も大人も空が朱色に染まる頃には家路を急ぐ。けれどその台詞には隠れた言葉があった。



―逢魔ヶ刻に一人で居ると、“淋しがり”の妖に連れて行かれてしまうよ―



偶々この村を通った修行僧に聞いた言葉だった。
普通、妖は進んで人間と関わろうとしない。近寄ってくるのは淋しくて淋しくて何でも良いから仲間の欲しい妖が一人で居る人間を仲間にしようとするんだと聞いた時、それはまるで自分の事じゃないか。と静緒は思った。

それからと言うもの静緒は逢魔ヶ刻に現れる妖を待ち続けた。
暮れ行く空に恐れなんて抱かなかった。



そうして現れた臨也はこうやって何時だって優しく静緒を迎えてくれる。




「臨也、臨也!今日はね、母さんがお饅頭をくれたんだ!」


そう言って懐から取り出した静緒の手には大きな饅頭を半分に割ると、片方を臨也に差し出してきたので大人しく受け取る。
静緒一人で食べてしまって良いのに。と思う臨也だが、初めにそう言って断れば「二人でなんだから、二人で一緒に食べた方が美味しいだろう!」と押し切られたので大人しく従う事にしている。

でも、確かに、特別美味しい訳でも無い筈のこの素朴な味の饅頭が静緒と分け合う事で特別な味に感じる気がする。と臨也は心の中で思った。


二人で饅頭を食べながら、臨也は今日見た事を面白可笑しく静緒に話してやる。
妖だけに昼間は表に出ず寝床に篭っている臨也だが、妖に比べると短命でちっぽけな存在である人間を観察するのが好きらしく、妖力で作った水鏡で人間達の生活を観察しているらしい。
何処かの夫婦の痴話喧嘩や狐に化かされた男の話し。クスクス笑う静雄の捲れた袂から覗いた白に、それまで流れる様に話していた臨也はピタリと言葉を止める。


不思議そうに首を傾げる静緒の腕を優しく掴むと、臨也の思惑に気付いたのか静緒が悲しそうな顔をする。



「俺、今日も化物だって…言われた…」
「シズちゃん…」


それも臨也は水鏡を通して見ていた。
臨也と出逢って明るくなった静緒はまだ人前に出るのは躊躇うものの、陽の下に出るようにはなった。
今日は母を手伝って一緒に山まで木の実を取りに行っていた。
滅多に人の来ることの無い場所だったのだが、今日に限って以前怪我をさせてしまった少年が友達を連れて探検に来ていた。それが静緒を見るなり足下にあった石を次々と投げ付けてきたのだった。それなりに距離があった為殆ど当たらなかったのだが、一つだけ投げられた硝子の破片が運悪く腕を掠ってしまう。その傷口から流れた血に驚いたのか少年達は逃げ去った為それ以上石を投げられることは無かった。
静緒の怪我に気付いた母親が慌てて家へ連れ帰り治療をしている最中、静緒はずっと「心配掛けてごめんなさい」と泣いていた。


ただ、胸にしがみ付きしゃくり上げるだけの静緒の黄金色の髪を臨也はゆるりと撫ぜる。



「(俺達妖は人と違って心の臓なんて持たないのに…
この子の悲しい涙を見る度に胸が痛いだなんて…どうかしてる。
まるで、人間みたいじゃ…ないか)」



しゃくり上げ続け所為で息が不規則になってしまった静緒の背を優しく叩いてやると、落ち着いた静緒がグシグシと目を擦りながら臨也を見上げる。


「俺、何でこんな髪の色で生まれたんだろ…臨也みたいな黒髪で生まれてたら…そしたら…」



くしゃり。自分の髪をぞんざいに握る小さな手を臨也はその上から優しく解く。



「シズちゃんの髪は…さ、凄く綺麗な色じゃないか。
その色を見て化物なんて言う人間達がオカシイのさ。俺もソコソコ長く生きているし、色んなヤツと出会ったけど妖でこんな綺麗な黄金色を持っている奴なんて見たこと無い。

だって、俺達妖にとっては黄金色は無縁のモノなんだよ?
陽の下に出れない俺達には、易々とお目に掛かれるものじゃ無い。
黄金は陽の色だ。
俺は、初めてシズちゃんを見た時まるで陽の光りの様だと思った。だから…―
…この村の人間達は外を知らなさ過ぎるだけさ。

きっと何時か君を解ってくれる人が現れるよ。だからどうか、泣かないで」




臨也の様な黒髪ならば、確かに静緒はここまで異端扱いされず悲しみに泣く事無く、他の子供達と一緒に昼間の陽の光りの下を走り回って居ただろう。

この美しい金糸が静緒の悲しみの原因だと知っているけれど…






「(でも、そうじゃなきゃ…君を見付けれなかった…なんて思ってしまう俺は…何て…)」




自分が決してお綺麗な存在なんかじゃ無いと言うのは重々承知している、けれどこの透明で綺麗なものだけを集めて作られた様な生き物を前にしては自分の浅ましさを浮き彫りにされた様な気がして臨也は苦笑する。




それはもう静緒に触れるのを躊躇してしまう程だったが、




「でも、こうじゃ無かったら、臨也と逢えなかったのかな…」


それも、何か嫌だな…。そう言って困った風に笑う静緒を臨也は抱き締めた。
あまりに突然の事で一瞬硬直した静緒だったが、すぐにことりと臨也の肩に頭を乗せて体を預けた。




その温かさに何故だか臨也は泣きたくなった。






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