2-2 | ナノ





初日で男装の麗人平和島静緒の噂が広がり、態々静緒の姿を見にやってくる生徒が後を絶たなかった。
それどころか女子の間ではファンクラブ的なものまで現れたとか何とか…


「あの、平和島さん。
さっき調理実習でクッキーを作ったの。あの、貰ってくれませんか?」



別のクラスの女子が休み時間に態々静雄達のクラスまでやってきて頬を染め、簡単にではあるがラッピングされたクッキーを差し出す。
端から見れば一見女子生徒が意中の男子生徒にアプローチしている現場にも見える光景に周りの人間は固唾を飲んで見守ってしまう。

が、当の本人は見た目こそその辺の男子生徒より格好良いが中身まで完全な男になって居る訳では無いので、キョトンと女子生徒を見遣り首を傾げる。



「えっと…いい、のか?俺なんかが貰って…」



静緒がそう言うと女子生徒は勢い良くコクコクと頷き、クッキーの包みを静緒の掌に乗せた。
何かもらったりしたらちゃんとお礼を言う事。と小さい頃からそう躾けられていた静緒は本人にとっちゃ何も狙っては居ないのだが、美人が微笑むと言うのはそれだけで随分破壊力を持っているものである。


「ありがとな」
「…っ、キャー!!!」
「???」


真正面から微笑み付きで礼を言われた少女は真っ赤になって走り去り、見守っていた生徒達も若干頬を染めながら目を反らす。
何かしてしまったのかと目線で尋ねてくる静緒に新羅は空笑いをしながら何も悪い事はしていないと教え、「罪作りな子だよ…」と呟いた。




それからも、最初の頃程大袈裟では無いものの、未だ女子生徒にキャァキャァ言われ続けている静緒に歯噛みしながらも、切欠を見出せない所為だと中々静緒に聞かれてしまった暴言への弁明を出来ないで居る臨也に「ヘタレ」と新羅が野次を飛ばす日が続く。
そんな中、事態はまた新しい局面を見せる。












「お」
「ん?」
「何…って…」


校門で一緒になった3人が下駄箱までやってくると、自分の上履きを取り出そうとした静緒が中を見て声を上げる。
その声に反応して新羅と臨也が寄って来たので自然と場所を開けると、見えたのは上履きの上に乗っている一通の封筒。

封筒も宛名の文字も女の子らしい可愛いもので、“平和島 静緒様”と書かれている。
内容も“今日の放課後、体育館裏の桜の木の前まで待ってます”


「わぁあぁああぁ!今時下駄箱にラブレターって何処の少女漫画!?」
「臨也、うっさい。
…行くのかい?これ」
「んー…果たし状とかじゃねぇだろうし…つか、ラブレターって…俺、一応女…あー…まぁ、いいや。果たし状なら相手沈めるまでだし」


大爆笑している臨也は完無視して送り主の名前が書かれてない手紙を読み返す二人。
肝心の放課後が来て、もう一度本当に行くのかと尋ねる新羅にやっぱり静緒は何でも無い風に返す。


「送り主が解んねぇ以上、直接行かなきゃ下手したらずっと待ってるかもしんねぇだろ?」
「…いいかい、静緒。
もし…もしだよ?これが本当に女の子からのラブレターだったとする。男だとか女だとかそれは個人の趣味だから否定はしないよ?でも、君は女の子なんだよ?男の子になろうとなんて、しなくて良いんだからね?」
「―…変、なの…。まるで俺がOKするの前提みたいな言い方」





おかしそうに笑って指定場所へ向かってしまった静緒の背中を見詰めながら新羅はポツリと呟く。



「静緒は優しいから…それに今の静緒は“女の子”の気持ちに流されてしまいそうで…心配なんじゃないか…」



その顔は本当に心配そうで、ぎゅっと拳を握る。





「それもこれも全部臨也の所為だよねぇー
もしもコレで静緒が流されてOKなんてしてみろ。
僕は君の頭を解剖して、もっと素直になれるよう脳を弄くってやる!!」
「え?え?それはちょっと理不尽過ぎない…って、新羅さん目がマジなんですけどぉー…」
「マジに決まってるでしょ。さぁーこっそり覗きに行くよー」




何時もの非力さからは信じられない力で臨也を引き摺って行く新羅は、急いで静緒の後を追った。













静緒が指定された場所に行くと、其処に一人の女子生徒が居た。
静緒の姿を視界に居れた瞬間の表情に負の感情は見えなかった為、暴力を振るわないで済む。と胸を撫で下ろした。


「えっと…あんたが俺に手紙くれた人?」
「はい。突然済みません…」


どうやら手紙の主だったらしい生徒は大人しい雰囲気の、小柄で可愛らしい感じの少女で自分とは正反対の子だなと静緒は心の中で思った。


「で、俺に何か用事なのかな?」
「あ、あの…」


真っ赤になって俯く少女の長い髪がさらりと揺れる。
自分のは自ら切り落としてしまった其れだけど、少し羨ましく思った。



「わ、私、平和島さんの事、ずっと好きだったんです…っ」
「え…」
「覚えてないかもしれないけど…
私、高校に入学し立ての頃、池袋の街で男の人達に絡まれて、私、男の人苦手だから怖くて怖くて…でも、その時現れた平和島さんが助けてくれたんです」
「ごめん。覚えて無い、し、それにこんな格好だから勘違いさせちゃってるかもしれないけど、俺一応女…」
「大丈夫です。それは解ってます。だって助けてもらった時は平和島さん髪が長かったし、服装もちゃんと女の子でした。
気持ち…悪いですよね、女なのに女の子の事好きになっちゃうなんて…」


更に俯いてスカートをぎゅっと握る少女に静緒は考える。


「(男だとか女だとか言う前に全然知らない子だし…OKなんて出来ないけど…
でも、)
キモイ…とかは思わないよ。その、OKも出来ないけど…
酷いこと言われるかもしれないって思ったのに…逃げなかったのは少し尊敬する


(…俺なんか…直接言われなくても…諦めて逃げてしまったのに)」
「…ありがとう。平和島さん」





微笑みあう少女、それを少し離れた位置から除き見る男子二人。



「ハイ臨也くん。解剖決定!」
「ぎゃぁっ!?ちょっ、OKはしてないじゃないかっ!!」
「OKはね…でも、確実に流されたよアレは…ソレもコレも君の所為だーーーーーーーーっっ!!!」
「お、落ち着いて新羅ぁあぁああぁ!!!!!!」







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