「流石のシズちゃんでも、この状態で海に沈んだら死んじゃうよね?」
まぁ…、いくら俺が人より体が頑丈だからつっても、流石に息が出来なくなったらヤバイだろ。
つー訳で、今はヤバイって事なんだろうなぁ。
何時もみたいに臨也追っかけてたんだが、海まで誘い出されてたみたいで時々掠るナイフの刃先には体が動かなくなる薬が塗られてたらしい。
立て無くなった処を意外と力の強い臨也に胸座掴んで引き上げられ、海に背を向けて波止場の縁、かかとは中に浮いた状態で立たされる。
つまりは、臨也が俺の胸座を離せば俺はそのまま海にドボンだ。
これは、いよいよ、マジでヤバイな。
俺らの殺し合いの喧嘩も今日で終いってことか。
思い起こせば高校ん時、初めて会ったあの日からいけ好かねぇ…って思って、即行喧嘩始めて卒業してからも会うたびに喧嘩して殺し合って。
いけ好かねぇ・・・けど、コイツは数少ない、俺と面と向かって接してくれる奴だったから。
それがどんな感情であっても、避けるんじゃなくて俺を俺として扱ってくれる奴だったから。
好きだった。
あ、いや、今もなんだけどね。
まぁ、なんつーか、男同士ってのもあるし、最初にいけ好かねぇって殴り出したの俺からだしってのもあるし、それに人ラブとか人間全てを愛してるなんて言ってるこの変態野郎は俺だけは愛せない、嫌いだって言うから…ますます伝えれる訳ねぇだろ?
意地もあるし、アイツの事だから腹立つ顔で哂うだろうし。
あんだけ言われて今更に感じるかもしれないが、伝えた気持ちを否定されて傷付きたくなかったから。
声を失った人魚姫じゃなく、俺はちゃんと相手に伝えれる声があるのに、必要ねぇ罵声はいくらだって飛び出るのに。
絶対にそれだけは言えないんだ。
うん。
人魚姫なんてのに例えたのは海の側に居るからだ。
…人魚姫、か…
結構可哀想だよな。一目惚れした王子に会いたいからって足をもらう代わりに声を失って、で、結局王子様は他の女と結婚しちまって、最後、王子を殺して助かるか、王子を殺さずに自分が海の泡になるかって時も結局王子は殺さずに海の泡になって消えちまったんだよな…確か。
毎回毎回、「殺す」って言って臨也を追いかけたけど、結局殺せなくて、自販機とか投げたって避けちまうアイツにムカツク半面、何処かほっとしてる自分が居た。
殺し損ねた…じゃ、なくて、きっと、どうあったって俺にはコイツを殺せなかったんだと思う。
で、こうやって死の局面に立ってる。
何か、ほんのちょっとだけ人魚姫に似てるか…?って思ったり思わなかったり。
まぁ、俺はあんなに綺麗じゃないし。伝えようと思えば伝えれたのにそうしなかっただけだし。
死ぬのだって俺が油断したからだし。
死んでも泡になって消えるんじゃなくって、水吸ってぶくぶくに膨れて海面に浮かぶだけだし。
「何、だんまりしちゃって。
この薬、行動は止めるけど意識ははっきりしてる筈だけど?
それとも本当に脳筋で思考まで鈍ってるとか?…まぁ、シズちゃんには馬鹿だから思考らしい思考までして無いかなー?」
「…」
「…あーあー。
何か喋りなよ。つまんないんだけど。
ほら、命乞いとか無いの?本当に俺が手離したら海にボチャンだよ?」
人殺す状況でつまるつまらないの話しかよ。
本当いけ好かねー。
「…するかよ、命乞いなんて、格好わりぃ…」
「…あ、っそ。じゃぁ俺もいい加減手疲れてきたから。バイバイ、シズちゃん。大嫌いだよ」
最後まで大嫌いかよ。
しかも笑顔かよクソ臨也。
吐かれた言葉はアレだが、最後に見るのが笑顔ってのは…悪くねぇかな。
どうせ最後なら、俺も吐き出しちまうか。きっと臨也が反応返すより俺が海に沈む方が早いだろうし。
俺は…本当は…
「好きだった」
「…っ!?」
はっ、あの臨也が目見開いてキョトンとした顔してる。
いい気味だ。
海底から見た月は青く輝いてるように見えて、結構綺麗だった。
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