気付くと屋敷の中で、臨也にしな垂れかかる様に体を預け長い腕に抱き締められながら髪を梳かれていた。
「あ、起きたシズちゃん?
屋敷に着いたよー」
にこにこと子供みたいに笑う臨也が俺の顔を覗きこむ。
起きたばかりで呆けたままの頭で自分を見下ろすと、寝ている間に着替えさせられたらしいどう見ても女物の着物。
詳しくは無いが明らかに上等だろう着物は臨也と同じ黒。違うのは大きな椿の模様が有る事。
そして、その内には鮮やかな赤の長襦袢。
遊女の様に襟を抜かれ態と着崩して着付けられた裾からは太腿が露になって、同じく大きく開いた胸元には馬車で臨也に付けられた無数の…無数の紅い痕…
吐き気が込み上げて来て再び意識が飛びそうになる。
「ここがシズちゃんのお部屋。」
そう言われ霞んだ視界を取り戻す為何度か目を瞬いてから見渡すと、庶民だった俺には想像も付かないぐらい大きな部屋。
見事な和室に今俺達が座っている深紅の敷布の大きな天蓋付きベッドと言うチグハグな組合せも、この男の趣味なのだと思ったらそれすらも“らしい”とすら思える。
そして部屋に面した広い庭には立派な椿の木。きっと椿の季節になれば見事なものなんだろう。
「庭に椿が植わってるの解る?
今は季節じゃ無いけど、凄く綺麗なんだよ?ココは俺の一番気に言ってる部屋。」
そう言って、臨也が着物にあしらわれた椿の模様を指でなぞる。
調度品から何からなにまで上等な部屋。
庶民ならば憧れるものなのかもしれないが、今の俺は素直に喜ぶなんて事出来ない。
どんなに綺麗でもココは俺にとって冷たい鉄の監獄に変わらないんだ。
項垂れる俺の首に臨也がまた唇を落とし、痕を増やす。
湿った音と微かな痛みの分だけ肩が震え目頭が熱くなる。
―イヤだ…イヤだ…助けて…―
往生際悪く、心の中で助けを求める自分が酷く情けなかった。
暫くすると首に微かな重みを残して首に触れていた手が離れていく。
恐る恐る自分の首に触れ、その重みの正体に気付いてしまい、更に絶望感は広がっていく。
「シズちゃんには赤が良く映える」
ジャラリと臨也の握る、俺の首に繋がっている鎖が音を立てる。
俺の首には臨也が言う通り赤なんだろう。動物に付けるみたいな首輪が嵌められていて、鎖は部屋の隅で繋がれて居る。首輪自体には鍵を付けられた訳じゃない。外そうと思えばすぐに外れるだろう。けど…
「此処は、君を閉じ込める為の鳥籠だよ」
耳に唇を触れさせて囁く声音は睦言みたいに甘いのに、非情な言葉が直に鼓膜を震わせる。
…俺は、自ら羽をもがれる事を決めたんだ…
「可愛い可愛い俺の金糸雀…」
俺は、籠の鳥…
アトガキ