罪と罰、贖いと慰め@ | ナノ


「臨…、也…」
「あー可哀想だねぇ。体の自由、利かないでしょ?」
「な…に…」
「うん。さっき飲んでたお茶にさ。ちょーっと動けなくなるお薬混ぜちゃったんだよねー。
暴れられると困るから」



どうしよう。
笑いが止まらないよ。
誰もが恐れる破壊神平和島静雄が、今、無力にも俺なんかに組み敷かれちゃって、
「信じられない」って顔で、俺を見てる。



取り入るのは簡単だった。
人並み外れた力故に他人から疎まれる彼。
何時も独りだった彼は“愛”というものに飢えていた。


だからこそ彼は気付かなかったんだろう。
俺の愛と言うなの嘘に。
騙されて、絆されて、挙句俺なんかを愛してしまって。

中々楽しかった恋愛ごっこ。
それももう終わりにしなきゃ…ね。それが俺のお仕事だから。
その為に君に近付いたのだから。


君を…殺す為に。


澄んだ彼の瞳に映る俺は、何て気持ち悪い顔で哂ってるんだろう…





「ごめんね。
俺はシズちゃんの事これっぽっちも恨んじゃ居ないんだけど…お仕事でさぁ…」
「嘘…、だったのか…?全部…」
「まぁ、そうなるね。
同性って初めてだったけど、そんなに嫌なもんでもなかったよ」
「そうか…」



シズちゃんの声がぐっと低くなる。
嘘を吐くのも、吐かれるのも嫌いな彼だ。酷く怒って居るんだろう。
こうやって体を動かなくするでもなきゃ、怒ったシズちゃんに一発で頭を潰されてたかもしれない。

けれど、呟くと同時に閉じた瞼が開かれた時、シズちゃんの瞳に宿っていた色は俺の予想だにしないものだった。



「そう…か、俺、こんなだから…きっと碌な死に方しねーだろなって思ってた。
何だろ。ヤクザか何かのご不興っての買っちまったのかな…」


静かに、泣きそうに眉を下げて、透き通った色の瞳でただ俺を見上げるシズちゃん。
頚動脈に宛がったナイフに気付いているだろうに怯えすらしない。



「でも、そーでなきゃ、手前と出会わなかったかもしれねーんだな」
「…シズちゃん…」


この顔、見たことがあるなって思った。
確か、絆して絆して、やっと俺がシズちゃんの事好きなんだって思わせるのに成功した日。
あの日も確か泣きそうに笑ってた。

同じ泣き笑いでも、あの日と今じゃきっと種類が違うんだろうな。
あの日は嬉しいって思ってくれてたんだろうけど、今は…



「俺は、人間じゃない、化物なのに…だから、唯一俺を愛してくれてた家族に迷惑掛けたくなくて、出てきたのに…
なのに、やっぱり人並みに愛されたいなんて、間違ったことを願って…
裏でもなきゃ…愛してる振りすらしてもらえねーよな…」


悲しくて、泣きそうなんだろうな。
本当に可哀想な子だ。こんな純粋な子なのに。

まぁ、騙してた俺が可哀想なんて、そう思う資格すら本当は無いのかもね。
だから、この悲しそうな表情に胸が痛むなんて、きっと気の所為なんだ。



「でも、さ。




…嘘でも、愛してくれて…愛させてくれて、ありがとう。
手前に殺されるんだったら、そんなに悪い気も…しねぇかも」




「っ、」






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